07年3月、軽い下見のつもりで鷹島を訪れた半澤たちは、なぜか、漁協の大会議室に案内された。会議室のドアを開けてみると、そこには組合長の板谷以下、組合の専務理事、そして松浦市の職員までが勢揃いしていたのである。総勢30人。板谷が立ち上がった。
「では、双日さんから、本日お見えになった目的をお話しください」
想定外の展開に驚きながらも、ミスターマグロが即席のプレゼンをぶった。
「われわれはマグロの安定供給のために生産地を確保しなければなりませんが、いきなり東京の大企業がやってきて、利益だけさらっていくとは思わないでいただきたい。あくまで、地元にもメリットのある関係を構築していきたいのです」
板谷が答えた。
「わたしらも、ぜひ共存共栄でやっていきたい。そうじゃないと、長期的な付き合いはできなかばって」
軽い下見は図らずもお見合いの様相を呈し、そのまま大宴会へと雪崩れ込んでいった。鷹島唯一の宴会場に、次々と組合員の漁師たちがやってくる。参加者は50人を突破。宴たけなわ、お酌をして回る半澤に向かって組合長が叫んだ。
「これからこの半澤さんが鷹島にずっと来よるけん、みんなよーく顔を覚えんといけんよ。半澤さん、挨拶挨拶!」
「えー、とにかく前向きに検討したいと思いますので、よろしくお願いします」
宴会は朝の4時まで続いた。漁師たちと杯を交わしながら、半澤は地元の期待の大きさと同時に、警戒心の強さも感じ取った。大資本に漁場を荒らされ、利益だけ持ち逃げされるのではないか……。
半澤は、大宴会の日をこう述懐する。
「いきなり追い込まれた感じでしたが(笑)、挨拶をしてしまった手前、自分が矢面に立つしかないと腹を括りました」