地元の企業がしっかり根付いている愛知県

【田原】総務省に入って1年目に、愛知県庁の市町村課に派遣されました。これは自分で希望して行ったのですか。

鹿児島県長島町副町長・井上貴至氏

【井上】はい。1年目はみんな外に出ますが、都道府県は自分で選べます。愛知を選んだのは、地元の企業がしっかり地域に根を張って活動していたから。トヨタ自動車しかり、イナックス(現LIXIL)しかり、日本ガイシしかり。大阪とはえらく違うと思いまして。

【田原】どうして愛知の会社は東京に行かないのですか。実際に愛知に行って何か分かりました?

【井上】何でしょうね。市町村課の本来の仕事は、市町村が財政や税制、地方自治法関連のことで困ったときに相談を受ける県側の窓口で、お仕事をするうちに市町村の職員の方たちとプライベートでも仲良くなりました。誘われて地域のお祭りに遊びに行くようになったのですが、「俺はトヨタの社長になるより、この神輿の先棒を担ぎたい」と言う人が何人かいました。もう地域のDNAが自分のDNAになっていて、本当に毎年楽しみにしていらっしゃる。企業が東京に行かないのはいろいろな要因があって分からないのですが、地域には隠れたヒーローがたくさんいて、そういう人たちが地域を支えているということは分かりました。

「平成の伊能忠敬になる」と全国を回る

【田原】井上さんは「平成の伊能忠敬になる」といって、愛知以外にも全国の地方を回られた。どうしてですか。

【井上】地域のヒーローって、ホームグラウンドにいるときが一番輝くんですよね。もちろん東京で会うこともできますが、地方の魅力を知るには、絶対にこっちから出向いたほうがいい。そこで、全国でいろんな取り組みをしている町を訪ね歩こうと。

【田原】愛知以外では、どんなところに行ったのですか。

【井上】いろいろ行きましたが、とくに何度も通ったのは徳島の神山町と、長野の小布施町です。

【田原】神山町はどういう町ですか。

【井上】人口6000人ぐらいで、すだちの生産量が日本一の町です。もともと農業の町ですが、世界中からアーティストを呼んで、芸術作品を一緒につくろうという取り組みを20年近く続けています。アーティストの方が住みつくなかで、神山って面白いよねという話になって、ほかにも建築家やICTのベンチャーの方たちまで住みつき始めました。さらにそういう感度の高い人たちに喜ばれるように、レストランと農家と連携して有機栽培の野菜をつくろうという動きもあります。人と人が結びついて、新しいことがどんどん生まれています。