徳島県神山町に、総務省のサテライトオフィスを作ったが……

田原総一朗
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。

【田原】井上さんは神山町でも活動されたのですか。

【井上】当時は総務省の仕事で忙しかったので、週末の行けるときに行って参加させてもらうくらいでした。政策的に関わったのは、地方創生で幹部から呼ばれて、何かアイデアはないかという話がありました。そこで振り返ってみると、地方の現場からは「みんな視察に来るけど、象徴的なところだけ見て帰ってしまう」という声が多かったことを思い出しました。たしかに地方には実際に生活してみないと見えてこない課題はあります。そこで地方創生を担当する官僚を神山町に1週間送り込んで、サテライトオフィスで仕事をしてみるという実験をしてみました。

【田原】サテライトオフィス?

【井上】いま神山町には東京から来たICTベンチャーが事務所を構えていて、ネットなどのインフラは整っています。そこで同じように官僚にも仕事をしてもらおうと。

【田原】やってみたらどうでした?

【井上】うまくできなかったです。ただ、これは神山町ではなく霞が関の問題。いざやってみると、むしろ霞が関のほうが遅れていて、パソコンができなかったりテレビ電話がつながらなかったりしました。

【田原】えっ、そうなの? 地方創生とか言いながら、霞が関のほうはやる気がないのかな。もう1つ、長野の小布施町は、どういう町ですか。

日本版ダボス会議?「小布施若者会議」

【井上】人口は1.1万人ちょっと。葛飾北斎が晩年の5年間に何度も滞留したところで、北斎の肖像画が多く残っていて、田園の中の小さな美術館を核に町づくりをしています。

【田原】どうしてそこに何度も行くことになったのですか。

【井上】人です。町長や町の事業者の方や、外から来た学生たちが町長のご自宅で、夜な夜な集まってワイワイ飲むんです。そこで出てきた話が少しずつプロジェクトに、形になっていくのが本当に面白かった。

【田原】たとえばどんなプロジェクト?

【井上】日本版のダボス会議を目指そうということで、「小布施若者会議」というのをやっています。すでに4回行われていて、僕も1回目から3回目まではお手伝いさせてもらいました。3回目は全国から若くてやる気のある人たちが約200人集まって、3日間にわたって地方の課題について話し合いました。