大ざっぱといえば大ざっぱだが、客の立場からすると安くなることに異存はない。しかも、極楽湯では新川隆丈社長まで「auは安くしてくれそうだ。検討してみよう」と言い出していた。こうなると、大幅な値引きをしないかぎりソフトバンクに勝ち目はない。鈴木氏を含め、関係者の誰もがそう思った。


(左)平日でも1000人が訪れる極楽湯の基幹店、和光店(埼玉県和光市)。外食コーナーが充実しているほか、散髪などのサービスも提供。(右)仮に機械の不具合が見つかれば、iPhoneで撮影しメーカーに確認。

だが、ソフトバンクの担当者だけは別だった。不利を承知で、あの手この手を繰り出してきた。

たとえば、極楽湯の要望に合わせて契約内容を細かく見直しては、新たな提案を投げてくる。それだけなら身勝手な営業マンと言われそうだが、「まったく押しつけがましさがないんですよ」と鈴木氏は感心する。魔法の言葉がある。

「このご提案は、御社のためになりますか?」

提案の最後に、遠慮がちにこう尋ねるのだ。

「よく『売り込みたい機能』『売り込みたいサービス』を前面に押し出して、こちらの都合など構わずに営業してくる会社がありますね。でもソフトバンクの場合、提案内容が独りよがりではなく、あくまでも当社の視点から考えてくれたことが印象的でした」

鈴木氏が「いや、うちのためにはなりませんね」と答えたらどうするのか。

「2~3日のうちに提案内容を書き換えて、再提示してくるのです。そのスピード感にも打たれました。余計な機能を落としたり、それによって価格を変えたりということです」

そのために、担当者の訪問頻度は週2回ほどに激増し、電話やメールでの連絡も増えた。

あるとき「いま忙しいから就業時間中は無理。会えるとすれば夜の9時過ぎになります」と鈴木氏が伝えたところ、「結構です。会っていただける時間にうかがいます」と担当者は応じる。別の日、鈴木氏が深夜に電話しても担当者はつかまった。

「最後まであきらめないし、ここぞというときの臨戦態勢には、いい意味のベンチャー精神を感じました」(鈴木氏)