財務省とアメリカを敵に回してはいけない

【塩田】民主党政権はデフレを放置し、経済無策だったという批判が根強くあります。

【馬淵】2011年、私は代表選に出て金融緩和政策を一番、主張したんです(笑)。ですから、脱デフレという意味で、アベノミクスの第1の矢は、重要で正しい政策と思っています。

問題は第2の矢と第3の矢の失敗です。第2の矢は国土強靱化の名の下での公共投資一辺倒。景気浮揚の重要テーマではありません。そして、第3の矢の成長戦略は、野田内閣の日本再生計画と中身は一緒です。結局、市場は第1の矢の金融緩和しか評価しなかった。再分配政策を重視して、いかにして継続性を持てるか、国民に知らしめなければ、成長の軌道には乗りません。安倍政権はそこを見誤った。

【塩田】民主党政権時代、それができなかったのは。

【馬淵】私は総理じゃないですから(笑)。当時、脱デフレに舵を切るチャンスはありましたよ。私は2011年にデフレ脱却の勉強会をやっていて、日本銀行にも申し入れをしました。安倍さんが打ち出す前に、日銀法改正とさらなる金融緩和を打ち出しました。

【塩田】政権奪還を目指す場合、民主党政権時代の教訓の中で何が重要ですか。

【馬淵】日本では、政権を運営する場合、財務省とアメリカを敵に回してはいけないのは事実です。財務省の言いなりにはならず、かつ財務省を敵に回さないことでしょう。安倍さんは上手にやっているほうだと思いますね。

しかし、なかなか言いなりにならないというところが難しい(笑)。やはりありとあらゆる知恵を使う。ときには清濁を併せ飲む。単純な感情論で物事を考えない。すべての選択肢を頭の中で想定し、それをチョイスする胆力、腹が必要でしょうね。

【塩田】民意の支持を武器にして立ち向かうという姿勢、手法が何よりも有効では。

【馬淵】小泉純一郎首相がそうでしたね。もちろんそれが一番大きなパワーです。だから、選挙が重要になります。

【塩田】これからの最重要テーマは人口減社会の到来です。日本が停滞や衰退の危機に直面した場合、どう立ち向かって危機を克服するか。それが重要課題と思います。

【馬淵】人口減社会の手前の段階でいうと、現状でも全国の地域、地方が力を発揮できていない。もっとも重要なのは地域の活性化です。民主党政権は一括交付金をつくったが、これは大きかった。各省のひも付きの補助金だったのを全部はぎ取って一括交付金にして都道府県に配分していく。次に市レベルに落とし込んでいこうという段階で下野した。

ところが、安倍政権は、民主党の政策だからと言って、切ってしまった。役所は根こそぎ持っていかれた予算が全部、戻ってくるわけで、喜びます。霞が関は反対しません。

安倍政権は今、地方創生と言って小さな交付金をつくったけど、地方創生には何よりも一括交付金の復活です。中途半端に動かしているから、地方の停滞をずっと引きずっています。結局、安倍政権も地方への財源移譲をやらざるを得ない状況になっていく。人口減対策で何をやるかといっても、正直言って難しい。移民容認はわが国では簡単にできません。かなりの社会的コストを生み出すので、困難だと思っています。

(後編につづく)

馬淵澄夫(まぶち・すみお)
民進党・筆頭特命副幹事長
1960(昭和35)年8月、奈良市生まれ(55歳)。東京都立上野高校、横浜国立大学工学部土木工学科を卒業。三井建設に入社。その後、2部上場のコンピューター関連企業で取締役、北米法人最高経営責任者などを務めた。2000年の総選挙に民主党公認で奈良1区から出馬したが、落選する。03年の総選挙で再挑戦し、43歳で初当選(現在、当選5回。小選挙区で5期連続当選)。民主党政権時代、鳩山由紀夫、菅直人の両内閣で国土交通副大臣、菅内閣で国交相兼内閣府特命担当相、首相補佐官を歴任した。2011年と12年の民主党代表選に出馬したが、いずれも敗退した。民主党の幹事長代理の後、野党転落後に選挙対策委員長となり、15年12月から現職。著書は『原発と政治のリアリズム』。1男5女の父で、かつては自身と夫人の両親4人を含め、12人の大家族が一緒に暮らし、「大変だけど、総和としての恵みの豊かさを大切にする」という生き方を実践した。
(尾崎三朗=撮影)
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