最大の関心事は増税による駆け込み需要とその反動減
金融機関サイドも住宅ローンの新規申し込みよりも、借り換え需要が圧倒的に多く、新規の住宅購入につながっていない。ある住宅大手の企画担当役員は、マイナス金利は「住宅ローン金利の低下で住宅購入を促すきっかけになるかもしれない。ただ、住宅需要の本格回復につながるかは疑わしい」と漏らす。現状を眺めれば、この指摘もあながち的外れといえない。
住宅大手の場合、購入対象は富裕層が主体であり、戸建て住宅の平均単価は3000万円台後半と高額だ。このため、住宅ローン金利の低下より、株高など資産効果が受注につながりやすい。積水ハウスの阿部社長は過去の経験則から「円安・株高になれば、われわれのお客さまは動く」と読む。その意味で、政府、日銀の意図に反した「円高・株安」の“誤算”を招いたマイナス金利は、住宅業界をぬか喜びさせたに過ぎない。
実際、金融機関が一斉に引き下げた住宅ローン金利は、3月31日に3メガ銀行が10年固定型の金利をマイナス金利の影響が一服したとして引き上げた。さらに変動金利型に金利引き下げはなく、マイナス金利下での利用者の恩恵は一過性で終わりかねない。マイナス金利を巡っては、三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長が企業や家計の「懸念を増大させている」とし、“身内”の金融界からも副作用のリスクの指摘が挙がるほどで、金融市場や国民生活に混乱を招くだけとの見方もある。
住宅業界は目下、来年4月の消費税10%への増税に伴う住宅の駆け込み需要とその反動減が最大の関心事で、熊本地震で再延期が視野に入る消費税増税の行方に気が気でない。その意味も含め、生命線だった資産効果を生む機能が逆回転し出したアベノミクスに対する期待感は萎える一方だ。