手術を続けるのは患者さんのため、後進の教育のため
ビジネスの世界にいる皆さんも、管理職になって仕事が増えたときに仕事の配分をどうするか考えるのではないでしょうか。私は、かなり早い段階から外科医としての将来像を考え、手術にウエイトを置くようにしました。外来、入院患者の回診、医学部学生の卒前・卒後教育、研究、手術のすべてを全力投球でこなすのは無理があります。そこで、1日の時間の多くを手術のために使い、他施設よりも良い結果を出すことでエビデンスを構築して、訪れる患者さんに満足していただくとともに教育と研究につなげて、外来や回診、論文作成などは自分の医局の医師たちに任せてきました。研究もそれをライフワークとして選択した専門医師に任せ、医局員の管理は自分がして教授職をそれなりに全うする道筋をつけてきたのです。
すべてを一人でこなそうとしてどれも中途半端になってしまうのは嫌でしたし、そうしてきたからこそ年間500例前後の手術を執刀し実績を積んでこられたのだと思います。もちろん、手術の前に行う患者さんへの重要な説明は自分自身で納得いただくまでしますし、手術前後で気になることがあったら、直接入院中の患者さんのところへ行くようにしています。
手術に軸を置いてきたので、それに院長の仕事がプラスされたとしてもそんなに大変ではありません。外科医として自分を追い込んで、難しい手術をして、手術を良い結果で早く終わらせるということをしてきて余力を作ったら次の仕事、さらに余力を作ったら別の仕事を引き受けてきたら、たまたまそこに院長の職務が加わった感じです。これからも、他の病院では難しいといわれた患者さんの手術も可能な限り引き受けます。
ある程度これまでの通りの手術件数を維持するということは、自分が外科医であることを証明するためであると共に、患者さんのため、そして後進の教育のためです。実際に一緒に手術室に入って執刀し、助手を務めたりすることで外科医は育ちます。最近では医学部の学生や院内の研修医にとどまらず、患者さんの同意を得て、医師を目指す高校生や他院で良い手本が見つからずに成長で足踏みしているような医師たちにも手術室内での実地教育を積極的に行っています。どちらかというとアウトローで学会の庇護でしか存在感を示せない他施設の教授たちのように、机上の卒後教育を展開することには辟易していたので、外科医でいる限りは、自分の生き様と実際の手術を見せて後進の指導に力を入れたいと考えています。