突然襲ってきた狭心症によって、心配停止となり救急搬送された女性。3%ともいわれる奇跡の社会復帰をした彼女が、倒れる前に見逃していた予兆とは。「プレジデント」(2023年12月29日号)の特集「血管革命」より、記事の一部をお届けします――。

意識を失い電車の床に顔から倒れた

あれは2019年11月19日。仕事の打ち合わせに向かうため乗っていた山手線車内でのことでした。

もうじき浜松町駅というとき、私の心肺が停止したそうなんです。

そうなんです、というのは、私自身に一切の記憶がないからです。向かいの座席に座っていた人によると、座っていた私は急に前に倒れ、電車の床に顔からバンとぶつかったというのです。私の周りには人が集まり、声をかけてくれたりしたそうです。すぐにSOSボタンが押され緊急連絡が行われ、浜松町駅に到着するや駅員の方が必死に蘇生措置をしてくれたと、後になって聞きました。

でも私の記憶は、集中治療室でなんかザワザワしているという気配が途切れ途切れにあるだけ。倒れた前後のことはなにひとつ覚えていません。あのときの私は突然死寸前だったのです。

突然死とは、交通事故などの外因死を除く、瞬間死あるいは急性症状発現後24時間以内の死亡を指す。その多くが虚血性心疾患。心臓の栄養血管である冠状動脈が硬化や血栓で狭窄し、血液や酸素が供給されにくくなり発現するもので、心筋梗塞、狭心症、不整脈などがこれに当たる。日本AED財団のホームページによると、心臓突然死の数は年間約8万2000人。一日に220人以上、7分弱に1人が亡くなっていることになる。

冠攣縮性かんれんしゅくせい狭心症による心肺停止という、まさに突然死寸前のところから回復。奇跡的に社会復帰を遂げた熊本美加さんは、自身の回復に携わった方々から様子を聞き、著書『山手線で心肺停止!』を上梓。突然死について知ってもらうための活動もしている。

私はフリーランスの医療ライターをやっていて、健康管理にはそれなりに気を使っていたと思います。無類のビール好きでしたが、つまみは健康的なものを選んでいました。

また、エクササイズが好きで、ほぼ毎日、ヨガ、ジリアン・マイケルズのエクササイズ(有酸素運動と腹部エクササイズを組み合わせたもの)、ジョホレッチ(自律神経やホルモンバランスを整える)、ピラティスなどを行っていました。

アラフィフということもあり、毎年、区の健康診断や対象年齢のがん検診を受診。悪玉コレステロール値と中性脂肪値はやや上昇気味でしたが、ビール好きにもかかわらずガンマGTPなどの肝機能も尿酸値も正常の範囲。愛猫3匹と、平穏な日々を過ごしていたバツイチの私。仕事を終えてはビールを飲み幸せをかみしめる。そんな生活がずっと続くと思っていました。

ただし思い返せば、予兆というべきものがあったことも事実です。

あの日の2週間ほど前から、何度か胸に痛みを感じていたのです。胸の真ん中を、拳でギュッと押さえつけられたような苦しさを感じ、呼吸が辛くなるという経験がありました。

でもソファに横になってじっとしていると、10分ほどで痛みは消え去りました。その後は何もなかったかのように過ごせていたのです。単なるストレスだと軽くとらえていました。

PRESIDENT 2023年12.29号

「プレジデント」(2023年12月29日号)の特集「血管革命」では、最新医学をもとに解説する「『老いた血管』復活習慣23選」、専門医が監修した「すぐ判定◎『血流と血管年齢』誌上チェック」、名医がわかりやすく教える「糖尿病でも長生きできる人、できない人」など、病気にならず、体調が上がる情報が満載です。ぜひお手にとってご覧ください。