社長室の銅版画の作品群のなかに、踊るフラガールが大きく写し出されたポスターがある。震災後、ハワイアンズから営業再開に向けた思いを発信したものだ。

「私たちは、元気です。笑顔です。10月中の営業再開を目指して、一丸となって努力しています。地元の皆様と、そして日本中の皆様とのきずなに支えられて。」

ポスターに綴られた文は、フラガールたちで考えたもの。井上は言う。

「あれほどの被害を受けても、お涙頂戴の被害者意識に陥ることなく、自分の足で立つんだという気持ちを持っていた彼女たちは本当に立派です。だから私も、自分の持っているものを全部あげようという気持ちになった。この土地には自主独立の精神が息づいている。私の改革が成果を挙げて、会社でそれが発揮できるようになれば、そのまま花を咲かせてもらえばいい。その地盤づくりこそ、今後50年の計のはずなんです」

高度成長期に誕生した東北の「夢の島」は震災を乗り越え、未来に向けて歩き出す。井上の挑戦はこれからが本番だ。

(文中敬称略)

▼知恵で勝負!井上社長の主な改革

(1)接客にハワイらしさを導入――「ALOHA!(アロハ!)」の挨拶と、到着した客へのウエルカムスタイルを徹底。

(2)女性の管理職登用――顧客目線に近い女性社員を登用し、改革・改善提案をしてもらうことで会社や組織を変える力に。

(3)バス客へのサービス向上――首都圏発の無料送迎バス(宿泊者専用)の路線拡大(1日4便→11便)で来場拡大。チェックイン開始時間を早め、到着客を待たせずホテルへ案内する。

(4)フラガールショーのクオリティアップ――プロジェクションマッピング(映写機器)の設備を導入、ダイナミックでストーリー性のあるステージ演出が可能に。

 

(5)フラガールコンテンツの積極活用――解説付きパンフレット、精巧なフラガールフィギュア、フラガールショーDVD、ゆるキャラCoCoネェさんなどを作成。過去のフラガールのアーカイブ作成にも取り組む。

(6)清掃スタッフの地位向上――清掃スタッフの名称を「アロハエンジェル」とし、制服もアロハ柄のデザインに変更。

(7)フラガールOGの再雇用制度――平均10年で引退していたフラガールの再雇用制度「OHANA」制度を創設。元ダンサーの知識やホスピタリティを、顧客サービス向上に活用する。

再雇用制度で働く元フラガール。

(8)社内改革の仕組みづくり――社内改革の実行部隊として業務改革室を設置。同時に総務部内の人事課を独立させて人事部を新設し、業務改革室長に人事部長を兼任させる。

 
常磐興産相談役 斎藤一彦
1945年、福島県いわき市生まれ。68年中央大学法学部卒業、常磐湯本温泉観光(現常磐興産)入社。94年ホテルハワイアンズ総支配人。2002年、代表取締役社長就任。11年、東日本大震災で大被害を受け休業を余儀なくされるも、翌年2月に全面再開させる。13年会長、15年相談役。
 
常磐興産代表取締役社長 井上直美
1950年、東京都生まれ。74年東京大学経済学部を卒業、富士銀行(現みずほ銀行)入行。2005年同行常務執行役員、07年同常務取締役、08年みずほ情報総研専務取締役、10年同社長就任。13年、常磐興産に顧問として入社、同年6月同社代表取締役社長就任。
(榊 智朗=撮影)
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