27年間、一般職として働いてきた加藤恵美もそのうちの一人。ホテル・ブライダル部門を長く担当してきた加藤は、「ウイルポート」というホテルの宿泊支配人に抜擢される。
「新人の頃に私が指導した男性社員が、やがて自分を追い抜いて上司になることで、モチベーションが落ちることもあった」と昇進を喜んで受け入れる。
ところが、管理職になった直後から壁にぶつかる。
「会議で何か発言してもはね返されて落ち込んだり、現場の仕事と並行して管理職の仕事をやろうと、1日16時間もシフトを入れてくたくたになったりで、正直辞めようと思ったこともありました」と、不慣れな管理職の仕事の苦労を語る。
その後、上司から管理職の仕事内容を教わり、人を採用することで、次第に管理職の仕事に専念できる環境をつくっていった。今では客室のアメニティから、館内喫煙ルームの配置転換まで、支配人クラスが集まるグループリーダー会議の席などで改善提案を繰り出し、責任を持って実践している。
社内改革の切り込み隊長を招き入れる
社内に女性管理職を増やし定着させるために、井上はもう一つ布石を打っている。富士銀行で初の女性支店長を務め、行内で初めてダイバーシティの導入に取り組んだ、みずほ総合研究所・執行役員の渡辺淳子を招き入れたことだ。
入行以来、がむしゃらに仕事をしてきた渡辺だが、みずほ総合研究所に出向後は、エネルギーをぶつける場所もなく、モチベーシヨンを下げていた。そんなときに井上から、自らのキャリアが存分に生かせるポストの打診が入り、二つ返事で受ける。
渡辺は10人の女性管理職が誕生するのと同じタイミングで常磐興産に入社し、その直後から女性管理職だけの意見交換会をスタートさせる。
「管理職教育を受けていない人たちなので、フォローやケアが必要です。井上社長はそれがわかっていて、私に女性管理職を取りまとめ、上に引っ張り上げる役割を期待しているということは理解していました」(渡辺)
渡辺は、孤立しがちな女性管理職の悩みや相談を引き受け、男社会で戦ってきた自身の経験をもとに彼女たちに薫陶を与えている。翌15年にハワイアンズを統轄するレジャーリゾート事業の取締役本部長に就任。井上が推進する改革の切り込み隊長を演じている。女性の取締役をつくったことで、社内では井上の改革にかける本気度が伝わった。