坊っちゃん「松山東」が二松学舎大付に勝った理由
以上のような「野球部も強い」超進学校の象徴として、昨年のセンバツに出場した愛媛県立松山東高校を掘り下げてみたい。同校は、正岡子規などが卒業した県内有数の進学校(夏目漱石が赴任し、教鞭を取った)。昨年は82年ぶり2回目の出場。1回戦は優勝候補の東京・二松学舎大付を破る番狂わせを演じたのだ(5-4)。
松山東の練習時間は平日2時間半程度で午後7時には完全下校が規則だ。グラウンドも他の部と併用で、内野の範囲しか使えない日もある。バッティング練習はマウンド方向からバックネットに向かって打つのだ。そして、短い練習時間を補うのは、選手が自主的におこなう朝練だ。
さらに、体力・技術をカバーしたのは、頭脳だ。
彼らは対戦校や強豪校のビデオを入手し、投手の癖、戦術を研究した。データ班による分析が相手と対戦する際に、自信の裏付けになるよう、ミーティングなどでデータを伝授してきたという。練習ではバッティングマシーンは投手の球速に設定して、視覚を慣れさせた。
二松学舎大付戦の前夜も情報を共有するミーティングを行った。「左のエースはけん制を2球続けない」というデータが生きたのが決勝点を奪った7回。1死1塁から盗塁を成功させて次打者のタイムリーにつながったのだ。
勝利するための研究と分析。それを控え選手に責任として任せることで、チームの一体感を生んでいった。
「このチームはどういうチームですか?」
あるチーム関係者(トレーナー担当)が初対面の選手たちにこう問いかけたことがあった。すると、ある選手が即答したそうだ。
「上の代よりも打力が劣るので、最少得点を守り抜くチームです」
自己分析が日ごろからでき、目的意識が明確であるから即答できたのだ。「彼らは聞く能力があるので、ヒントを与えれば短期間で成果が上がった」と、その関係者は述べている。
さらに、この関係者は甲子園のゲーム直前の室内練習場、最終調整の場に仕掛けをした。マネジャーに紙芝居を託していた。
「甲子園おめでとう。大好きな野球を自分のため、監督と、そして……」
紙芝居の最後の絵は、控え選手の写真だった。
主将は「こいつらのために絶対に勝とう」と叫んだ。そして、優勝候補を破った。
選抜大会に続く、昨夏の甲子園の地方予選では惜しくも敗退(準決勝敗退)したものの、部員たちは例年、現役もしくは一浪後に、主に国公立大学に進学するという。
※参考資料:『白球は時空を超えて』(ミライカナイブックス)、各新聞社サイト、週刊朝日4・1号