新入生400人中医学部志望100人
東海(愛知)、灘(兵庫)、ラ・サール(鹿児島)……と、国公立大医学部(医学科)の合格者数ランキング上位は私立の独壇場だ。
そうした中、例年、国公立大医学部に現役・浪人合わせて50人以上の合格者を出し、私立の牙城に食い込んでいる公立高校がある。今年、創立113周年を迎えた熊本県立熊本高校。県民から「くまたか(熊高)」の愛称で親しまれる進学校である。
旧制中学以来の伝統校が大学受験に強いのは、私立が少ない地方で一般的な傾向だが、熊高の国公立大医学部合格者数は群を抜いている。うち約半数が熊本大学医学部(医学科、以下、熊医)という地元志向の強さも特徴的だ。
熊高生はなぜ医学部を目指すのか、なぜ地元志向が強いのか。その背景を探るため熊高を訪ねた。桜並木が続く緩やかな坂道を上ると、古びた門柱が出迎えてくれる。だが、熊本城の橋の橋脚を架け替えの際に譲り受けたという門柱には、どこにも校名を示す表札がない。
『たとえ世に知られなくても社会の礎たれ』という初代校長の教えが込められています」と、いかにも伝統校らしい逸話を披露してくれた光永幸生教頭は熊高OB。自身の高校時代を振り返ってこう話す。
「私の同期生でも450人のうち120人ほどが医学部を目指したはずです。なかには、2浪、3浪、あるいは大学進学後に転部して医学部に進んだ者もいます」
現在、医学部を志望している生徒の中には、こうして医師となった親の子供たちも少なくない。加えて、「卒業生の医師の多くが地元に残っており、その活躍を県民は身近に感じています。医師は『人のために働く』という点で子供たちにもわかりやすく、親の側にも『熊高に入ったら医者になる』という期待感が高いこともあるでしょう。九州全体がそうですが、理系出身者の就職先が限られていることも大きいでしょう」
このような背景から、現在も400人の新入生のうち、100人前後が医学部を志望するという。その後の高校生活を通して興味関心が広がり、最終的には50人程度に落ち着くが、「正直、この数字は多すぎると感じています」と、進路指導の小坂和海先生も首をかしげる。