自動音声ガイダンスを使った「Y字路」詐欺
昨今、「自動音声ガイダンス」を利用した架空請求の手口が広がっているが、これも前出の「Y字路」の手が使われている。
70代男性の携帯電話に着信履歴があった。
かけ直すと「あなたは、動画コンテンツに登録し料金を滞納しているので、支払わなければ民事訴訟を起こす」という音声ガイダンスが流れる。
「料金を知りたい方は1を、心当たりのない人は2を」
との音声の指示に従い、男性が「2」を押すと電話が相手にかかり、個人情報を聞かれたというのだ。
1番か、2番を押すように選択を与えているのだが、結局のところ、業者に電話がかかる仕組みになっており、電話をかけた人はまんまと金をだまし取られるケースが相次いだ。業者は、話を一度分岐させながら、最終的には巧みに自らの意図する方向に導いている。
今、何かと話題の「マイナス金利」もそうしたワルのネタになる可能性が高い。
マイナス金利が私たちの生活へどのような影響を及ぼしているか。多くの人がピンとこないのではないか。日本銀行の思惑はこうだろう。
(1)マイナス金利によって民間の銀行が企業への貸し出しを増やす。
(2)私たちが銀行に預けている利息が目減りすることで、単なる預金をするのではなく、株などに投資するように働きかけ、株式市場を活性化させる。
(3)ローン金利が下がることで、住宅や車など高額な商品を購入する人にとってはメリットが大きくなり、不動産業界や自動車業界への経済効果が望める。
現実のマーケットは今のところそうした思惑通りにはなっていないが、このマイナス金利自体は、こと「営業」に関しては確実に追い風になる「ネタ」だろう。
中高年の顧客に「マイナス金利で、生活に影響を感じていますか?」と尋ねたとしよう。
相手が「よい影響を感じている」と答えるならば、住宅や車などの高額な商品購入を考えている人かもしれない。その時は、そうした契約話をストレートに持ちかければよい。
だが、多くの人は「何も感じていませんね」と答えるに違いない。それどころか、預金の利息はスズメの涙ほどにしかならず、デメリットを覚えているかもしれない。そうした人には、さらに「資産運用に、関心がありますか?」と尋ねてみて、再び話の分岐点をつくってみる。
それに、相手が「はい」と答えれば、銀行にお金を預けるよりも、より高い利回りの金融商品を勧める話が展開できる。
もし仮に相手が「関心がない」と答えたとしても構わない。
その時は、東芝、シャープといった赤字企業の話題を持ち出して、「突然、会社の経営が行き詰まり、リストラなど職を失う危険性はありますよね。それに、これから先の受け取れる年金が減る可能性も大ですし」と、資産を増やす必要を説いて、関心を持たせる方向に誘導すればよい。
今は「老後破産」の言葉が騒がれているように、先行きの不安材料はたくさんあるので、結局のところ、投資話を持ちかけられるはずだ。
分岐点「Y」から、「契約をさせる」という一致点「X」に導くためには、相手の答えが、「イエス」「ノー」にどちらに転んでもよいように、ダブルスタンダードの姿勢で臨む必要がある。言うまでもないが、こうした「Y路地」戦略を駆使した詐欺は犯罪になるが、ふつうのビジネスなら合法である。