この部分へのステントグラフト治療は、外科的に胸部を切開してから行う方法と順天堂大学で行っているように完全に血管内治療で行う方法とがあります。われわれの方法は、術前に検査した立体型CT検査(3D-CT)の所見を元に脳血管の部分だけを血流確保した穴の開いたステントグラフト(開窓型ステントグラフト)をオーダーメイドで作成して治療するというものです。以前は作成まで2カ月以上かかっていましたが、現在ではいろいろな最新技術を駆使して1カ月以内で人工血管が準備できる体制になっています。高齢で体力のない患者さんにとっては大動脈弁に対するカテーテル弁置換術(TAVR(TAVI))とともに大きな光明が見いだせる治療ということができるでしょう。

突然の強い胸痛、息苦しさ、声のかすれに要注意

急性大動脈解離に戻りますが、発症の直前には、突然の強い胸痛、息苦しさ、声がかすれる、普通は脈が感じられないような場所が脈打つといった自覚症状がある人もいます。そういった異変を感じたときには、すぐに救急車を呼びましょう。また、50代から60代で高血圧の人に起こりやすいので、予防のためには、血圧をコントロールすることも大切です。

突然、大動脈解離が起こったようなときには、とにかく早く、救急車で緊急手術ができる病院に搬送する必要があります。東京都では、2010年11月から「急性大動脈スーパーネットワーク」を組み、消防庁と24時間大動脈の手術が可能な病院が連絡を取り合って、1人でも多くの患者さんの命を救えるように体制づくりをしています。何といっても放置すれば1カ月以内にほぼ97%が死亡するという怖い病気なので、早期治療が最優先なのは言うまでもありません。

そういった緊急時には、患者さんが自分で病院を選ぶことはできませんが、心臓病でも、狭心症、徐々に心筋梗塞が進んだような場合、あるいは、弁膜症、人間ドックで大動脈瘤が見つかったといったときには、病院を選ぶことができます。高血圧治療歴の長い人や心臓に雑音を指摘された人は一度、心臓超音波や立体型CT検査(3D-CT)を受けてみるとよいでしょう。そこで異常が検出されたら早めにセカンドオピニオンを受けることをお勧めします。

天野 篤(あまの・あつし)
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。
(構成=福島安紀 撮影=的野弘路)
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