独自の新しい乗用車を開発できるはずだ

マツダがこの独創的なディーゼルエンジン開発に着手したのは、今から10年前、2006年。折しもこの前年の2005年、国土交通省は国内で販売されるディーゼル自動車の排出ガス規制を強化する“新長期規制”を策定。さらに2009年にはこの規制は“ポスト新長期規制”となり一層厳しさを増した。このため、当時、国内のディーゼル乗用車販売は壊滅状態。というのも、ディーゼル車は排気ガスに問題があり、環境保全にマイナスという印象が国内の自動車市場に定着してしまっていたからだ。具体的には、排気ガスが汚い、音がうるさい、振動が大きい、高速でよく走らない、しかも車両の価格が高い、といった弱点を製品レベルで克服できていなかった。

マツダの開発陣は、このディーゼルエンジンの刷新にチャレンジする。そこには、革新的なディーゼルエンジンを核にすることによって、マツダ独自の新しい乗用車を開発すべきでありできるはずだという読みがあった。

革新的なディーゼルエンジン開発のカギは、このディーゼルエンジンの弱点を完全に克服することにあった。つまり、排気ガスを清浄化し、騒音と振動を抑え込み、高速でも快適に走り、しかも価格も消費者の手の届く水準にまでおさえる、裏返して言えば、それまでのディーゼルエンジンの持っている弱点をことごとく覆す、そんなディーゼルエンジンの開発こそがカギ、という意味だ。

排気ガスに問題があることで消費者の人気が衰退してしまったとはいえ、本来のディーゼルエンジンの長所はなんといってもガソリンエンジンよりも優れた燃料消費性能にある。というのも、圧縮比が16から18程度と高いために、一般的に9から11程度の圧縮比を持つガソリンエンジンよりも高い出力が得られるからだ。空気と燃料の混合気を圧縮する率、圧縮比が高ければ高いほど、燃焼したときに発生するエネルギーが大きくなるのだ。その種の教科書にも、「圧縮比を上げると熱効率が向上する」と書いてある、と寺沢は言う。

ただし、ディーゼルエンジンの場合、圧縮比を高くすればするほど排気ガス中のNOxが増加するという弱点が顕著に現れてくる。従来のディーゼルエンジンの開発では、一般的に、高い出力が得られる高い圧縮率の維持を優先させ、高圧縮に伴う弱点については、浄化装置に工夫をして出力の低下を抑え込む対策に重点を置いていた。つまり高圧縮の維持と排気ガス浄化装置のいわば“妥協点”を探る手法をとっていたのだ。(後編 http://president.jp/articles/-/17517 につづく)

(文中敬称略)

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