ブラック就業がはびこる地域は「いじめ容認」傾向

ブラック就業は、労働者の人権侵害の問題ですが、それだけにとどまるものではないでしょう。そうした大人社会の歪みは、未来を担う子どもたちの人格形成にも影響するのではないか。私は前々から、こういう仮説を抱いています。

ここにて、それを検討してみましょう。

文科省の『全国学力・学習状況調査』から、子どものいじめ意識を都道府県別に知ることができます。「いじめは絶対いけない」という項目に、「どちらかといえば、そう思わない」ないしは「そう思わない」と答えた者の比率です。この値は、いじめを容認する生徒の比率と読めます。

図3は、横軸に先ほど明らかにした正社員のブラック就業率、縦軸に公立中学校3年生のいじめ容認率をとった座標上に、47都道府県を配置したグラフです。

明瞭ではありませんが、ブラック就業率が高い県ほど、中学生のいじめ容認率が高い傾向にあります。相関係数は+0.3655であり、5%水準で有意と判定されます。

他の要因を介した擬似相関かもしれませんが、因果の可能性も否定できません。

よく言われるように、子どもは大人社会の鏡です。ブラック企業がしていることは「いじめ」そのものですが、それがはびこっている地域ほど、子どものいじめ容認意識が高くなるというのは、肯けることです。図3の横軸に、中学生の親世代のブラック就業率を据えたら、相関はもっと強くなるのではないでしょうか。

あまり知られていませんが、いじめ容認率は子どもよりも大人で高くなっています。

「いじめをしてはいけない」という項目に、否定的な回答をした者の比率(男性)をみると、13~15歳では4.3%、16~19歳では11.4%、20~24歳では16.6%、25~29歳では16.9%となります(内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』2013年)。

いじめは子どもの問題と捉えられがちですが、大人の社会にもあります。むしろ、前者は後者の引き写しと考えるのが妥当です。

近未来の日本は、人口比の上で「子ども1:大人9」の社会になります。子どもの人間形成にとって、大人が提示するモデルが持つ意味合い(効果)はひときわ大きくなるでしょう。大人社会の歪みは、子どもの育ちに影響する。このテーゼを、われわれは絶えず心に留めておかねばなりますまい。

(図版=舞田敏彦)
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