大前の視点[2]
封印された問い「なぜ対米従属が永久に続くのか」

日米関係というのも不思議な関係である。我々はサンフランシスコ講和条約の締結をもって、日本が独立国になったと教えられてきた。しかし、「日本は本当に独立国家なのか」という問いかけは、多くの日本人の喉元にずっと引っかかっている。

占領下と変わらずに今も米軍基地が日本全国に置かれて、しかも土地使用料をアメリカからもらうのではなく思いやり予算として駐留経費まで日本が負担している。占領軍が残していった憲法をそのまま後生大事に守っていて、しかも共産党や旧社会党のように反米思想を持った勢力が、その憲法を守り抜こう、という倒錯した関係がある。

民主党政権時代、「日米中正三角形」という米中等距離の外交方針を掲げた鳩山由紀夫首相に対してオバマ大統領が面会を拒否するほどアメリカは激怒した。なぜ日本はアメリカの後ろを自動的についていくだけの追従外交しか許されないのか。なぜ他国に接近するとアメリカから叩かれるのか。世界に例がないほど自由に使える米軍基地が半ば永続的に維持されているのはなぜか。どうして自国の憲法を変えられないのか――。こうした疑問に日本の歴史の教科書は何も答えてくれない。

独立国家の日本にアンタッチャブルの米軍基地と軍事力が既得権のごとく存在し続ける理由を正当化するドキュメントを、我々は見たことがない。サンフランシスコ講和条約を読む限りはそれにはまったく触れていないし、日米安保条約にも書かれていない。

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北方領土をめぐる日ロの歴史
▼戦後15年間の「歴史の空白」

安倍晋三内閣が閣議決定した集団的自衛権はアメリカの20年来の要望である、とされているし、これが日米ガイドラインの基になる、といわれている。しかしアメリカ議会ではこれによって日本が世界のどこでも米軍指揮下で参戦できるので国防予算が助かる、と歓迎されていることが日本ではまったく報道されていない。そうした対米永久従属、という合意が記された外交文書がどこかに存在するのかもしれないが、日本国民には知らされていない。世界史の中でも希有な「無条件降伏」にそれが含まれているのかもしれないが、国民にはいっさい説明がない。

前述の北方領土問題にしてもそうなのだが、食うに困っていた戦後15年間ぐらいの期間、日本人の歴史認識はほとんど空白に等しい。どんな戦後処理が施されたのか、何も知らないまま、知らされないまま、事態は進行して、気づいたときには冷戦構造の中でさまざまなことが固定化された。戦後15年の空白の歴史認識を正しく再構築する作業は、日本の真の独立のために必ず必要だと私は思っている。

大前研一
1943年生まれ。マッキンゼー&カンパニー本社ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を歴任。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長を務める。著書多数。最新刊は『大前研一日本の論点2015.16』。
(小川剛=構成 市来朋久=撮影)
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