中学で社会に行き詰まりを感じた

【田原】今日はぜひおうかがいしたかったことがあります。鈴木さんはITやメディアの人かと思ったら、もともと気鋭の研究者で、『なめらかな社会とその敵』という本をお書きになっている。ごく単純に言うと、この本で鈴木さんは、境界線を取り払ってなめらかな社会にしようとおっしゃっている。行き詰まりを感じ始めたのは、いつごろからですか?

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スマートニュース会長・共同CEO 鈴木健氏の略歴

【鈴木】中学生のころですかね。ベルリンの壁が壊れて冷戦が終わった直後は、理想主義が強かったですよね。フランシス・フクヤマは『歴史の終わり』を書いて、大きな戦争はもう起こらないと言いました。僕も、そうだといいなと思っていました。

【田原】うん。中曽根康弘も冷戦が終わったとき、「これは神が人類にくれた休息の時間だ。いまこそ人類は世界平和を考えるべきだ」と僕に言った。

【鈴木】ところが現実には湾岸戦争が起きて、必ずしも理想的な状況にならなかった。理想主義が現実主義との戦いに敗れてしまったわけです。

【田原】どうして理想主義が負けたんだろう。

【鈴木】現実を直視していなかったからじゃないですか。戦争が起きるのは生命の本質であり、それがない世界をつくるのは本質的に難しいということがわかっていなかった。

【田原】ん? 生命の本質って?

【鈴木】生命は資源がないと生きていけません。外部から何らかの物質を中に入れて、中で化学反応を起こしてエネルギーを取り出して、残ったものを外に出す。この代謝システムが生命の本質です。これは国家も同じです。貿易して外から資源を持ってきて、代謝させることで自己を維持させています。ただ、資源というものは有限であり、人口が増えている状況では奪い合わざるをえない。その現実を直視していなかった。