──リーダーには一般的に「発信する力」が必要とされています。「受け入れる力」「引き上げる力」が求められているとは興味深いです。

すべては、一連のコミュニケーションです。相手を受け入れて、その能力を引き上げるためにメッセージを発信する。「スピーク・トゥ・ヘッド(Speak to Head)」と「スピーク・トゥ・ハート(Speak to Heart)」の両方がなければ、大きな組織は動かせない。ロジックを一方的に押し付けられると、頭では理解できても、心のどこかがもやもやする経験は、多くの人が持っているはずです。私も入社した当時、何度もそんな経験をしました。幹部はほとんどがアメリカ人で、アメリカのカルチャー、アメリカでの経験をベースに日本法人へ指示をしていました。

日本人従業員からすれば、指示を理解はできても、それが日本市場を理解したうえでの指示なのかがわからない。そんなとき「日本市場を理解したい」というトップと「このやり方で進めるように」と言ってくるトップとでは、従業員の取り組み姿勢がまったく違うと思いませんか。それだけ「受け入れる力」を磨くことは、リーダーにとって非常に重要なのです。

──日本法人が海外進出する際にも、まったく同じことが言えそうです。

「日本企業のリーダー」でも、「グローバルリーダー」でも、優秀なリーダーの条件は、本質的には同じです。

──リーダーの資質は「天性のもの」が大きいと言う人もいれば「環境によりつくられる」と言う人もいます。

個人的な経験で言えば、ほとんどが後者だと考えます。私が生まれながらに持っていたものは、強いて言えばこの180センチメートルある体くらいです。

父は大阪で家族経営の会社をやっていました。大企業で働いていたわけでもなければ、リーダーというわけでもありません。私自身、学生時代は野球に打ち込んでいたので特別な教育を受けたわけでもなければ、英語もできなかった。しかし、P&Gに入社してからは、すばらしい先輩に恵まれ、常に難易度の高い案件を与えてもらいました。そうした環境に育ててもらった結果、いまがあると思っています。