金はなくても店はできる!
さて、ここに挙げた3つの機能を比較したときに、飲食店を繁盛させていくための重要度は決して同一ではありません。具体的に言えば、所有については特に近年その重要度が下がっています。飲食店は設備投資産業であり、それをまかなうための資金調達が肝要と思われるかもしれません。実際に20坪(約66平方メートル)くらいの小ぶりな飲食店でも、ゼロからすべてまかなおうとすると3000万円くらいは平気でかかってしまいますから、確かにお金は必要です。
けれども、2005年くらいからは廃業や撤退をした飲食店を低投資で活用できる「居抜き」の物件が非常に多くなりましたし、あるいは最近ではクラウドファンディングでの資金調達も不可能ではありません。そもそも豪華な内装があまり求められない時代になりました。つまり「金はなくても店はできる」という環境になっているのです。
逆に開発と運営の難易度は年々増しているのを実感しています。特に国内市場に関していえば、ありとあらゆる業態が出尽くして超飽和とでも呼べる状況の中、新しい業態や商品を生み出していくのは相当に難儀です。私自身は飲食店のプロデュースを本業にしていますが、それはずばりこの「開発」に合致するので、頭を悩ます日々が続いています。
また運営については、いわゆる「レッドオーシャン」での客の奪い合いという側面に加えて、最近では人材確保という極めて高いハードルが待ち構えています。こうした熾烈な環境で、働いてくれるスタッフを集めて、そしてお客を呼び寄せるというのは、異業種の方が想像するよりもはるかにしんどいことです。
こう考えると、冒頭で触れた異業種からの参入をとめたくなる気持ちは理解していただけるのではないでしょうか。お金はあるかもしれませんが、今やそれはさほど重要なファクターではありません。むしろ魅力的な業態をつくりあげること、そして店舗を日々きちんと回していくことこそが現在の飲食店経営の要諦なのです。
しかし、異業種の方には基本的にそのノウハウがあるはずもありません。仮に、開発部分は外注できたとしても、運営を自前でやろうとすれば「地獄」が待っている可能性すらあるのです。グルメ好きな異業種の方は、それを楽しむ側にいたほうが幸せなケースは本当に多いと思っています。