親を看取った後、すぐ働けない理由
なお、介護を兄弟で分担できる人は離職せずに済むと書きましたが、現場で介護家族の状況をつぶさに見ているケアマネージャー・Fさんに聞くと、兄弟があっても離職する人は結構いるそうです。
そもそも親の介護を一致協力して行う兄弟は滅多にいないとのこと。兄弟の中で親の家の近くに住む者、あるいは親思い、気が優しいといったタイプが、多くの負担を強いられることになる。加えて介護の過酷さは実際に体験した者でなければわからないものです。
そのため、いくら「大変だ、手伝ってくれ」と訴えても、真剣に受け止めてくれる兄弟は少ないといいます。Fさんは「そういう状況に陥らないためにも兄弟全員が一度は介護を体験するようにした方がいい」といいます。
その過酷さを知ることで、サポートをする姿勢が生まれる可能性があるからです。兄弟関係もさまざまで難しい面もあるでしょうが、あらかじめ兄弟間でそうした約束を交わしておくことも大事だと思います。
とはいえ現実には、介護をひとりで背負い込むことが多い。
その結果、仕事と介護の両立が難しくなり、離職に追い込まれることになります。総務省の就業構造基本調査によれば、会社などで働きながら介護をしている人は約240万人。そのうちの3人に1人が仕事と介護の両立は難しいと答えているそうです。そして実際、年間10万人超の介護離職者がいる。
離職すれば当然、収入はなくなります。
介護生活を成り立たせるのは貯蓄と親の年金ですが、介護が長引けばやがて貯蓄は底をつき、年金頼みになっていく。そして冒頭の牧野さんが聞いたような状況に陥るのです。
では、そうした人たちが抱える不安、介護が終わった(親を看取った)後はどうなるのでしょうか。
「すぐには動き出せない人がほとんど」とFさんはいいます。ケアマネージャーは介護が終わればお役御免。利用者とは縁が切れるものですが、長年担当し人間関係を築いた家族から現状報告や悩み相談の連絡が入ることがあるそうです。
「つらい介護から解放されるのですから、ホッとしてもよさそうですが、それ以上に喪失感が大きいのです。介護中は感情をぶつけ合ったりしていたのに、やはり親御さんが亡くなると悲しい。加えて日々追われていたケアを、それを境にやらなくて済むようになる。そのため何をしていいかわからなくなるんですね。長年、懸命に介護をしてきた人ほど、そんな風になりがちです」(前出・Fさん)
また、介護期間中は親と1対1のことが多く、社会から孤立してしまう。一種の引きこもり生活であり、社会に出て行きにくい精神状態。自分のために動こうという気持ちの切り替えができないという悩みを聞くことが多いそうです。