日本の人口が減りつづけている。出生数は2016年に初めて100万人を下回ったが、2065年には約55万人にまで落ち込むという。将来のためにどんな備えが必要なのか。「20年後の日本」を襲う6つの課題について識者に聞いた。第3回のテーマは「介護難民」だ――。(全6回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年1月1日号)の特集「老後に困るのはどっち?」の掲載記事を再編集したものです。

特養の入所待機者は2040年までに4倍近くに

団塊世代に次いでボリュームの大きい団塊ジュニア世代が50代になり始める2021年以降、介護離職の問題が深刻さを極める。親が要介護認定を受ける年に差しかかるからだ。

今後、高齢者の中でも高齢化が進み、施設を必要とする人のボリュームが増す。しかし、施設の整備が追いつかず入所できない人があふれてくる。16年には、要介護度3以上の特別養護老人ホームへの入所待機者が12万人を超えた。それが25年には43万人に、40年には47万人になると予測されている。そこで政府は、「施設や病院」から「在宅へ」と、介護政策の方針をシフトさせている。

ところがそこには、在宅で誰が高齢者の面倒をみるのかという視点が欠けている。厚労省は“地域包括ケア”という仕組みを実施した。介護サービス利用者は、00年の149万人から15年の512万人へと急増したが、加えて35年頃になると高齢者が増加するだけではなく、若い人も含め大半が1人暮らしとなり、地域の中に“手助け要員”がいなくなってしまう。自治体のヘルパーも、対応できるのは1日30分ほどだろう。

家族が仕方なく働きながら介護となるが、やがて転職や退職を余儀なくされる介護離職の増加が新たな問題になるだろう。現在でも、毎年10万人が介護のために職場を離れており、仕事をしながら介護する40~50代男性は69万人もいる。離職すれば収入が不安定になる一方で、在宅介護の費用がのしかかる。企業の中心的年代の離職は会社にとって痛手なだけでなく、国全体の経済停滞を招くような大損失につながってしまう。

この深刻な事態を受け、安倍政権は介護職員の待遇改善、施設整備の前倒し、介護休業制度の改革など「介護離職ゼロ」に取り組んでいる。しかし財源の問題などがあり、思うような成果は上がっていない。

介護職員の慢性的な人材不足も深刻な影を落とす。25年には253万人の需要が見込まれるのに対し、215万人ほどしか確保できない見通しだ。高度な医療を受けても、その後の療養先が足りない。やむなく仕事を離れ、年老いた親を無理して抱える。こうした介護離職を生み出してしまう負のスパイラル“介護地獄”への対応は喫緊の課題だ。

河合雅司(かわい・まさし)
産経新聞社論説委員
1963年、名古屋市生まれ。中央大卒。専門は人口政策、社会保障政策で、内閣官房有識者会議委員などを務める。近著にベストセラーとなった『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』。
(構成=青柳雄介 撮影=横溝浩孝)
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