JASRACの「弱み」はどこにあるのか?

――なるほど、これまではJASRACが圧倒的なシェアをもつ以上、その区分に従わざるを得なかったということですね。2社の統合と、エイベックスの楽曲の移管によってその状態を打破したいということは分かりました。著作権管理の大きな機能として収益分配がありますが、その点ではどういった変化を起こしたいのでしょうか?

【荒川】現状、JASRACやJRCを介してのCDにおける著作権使用料は販売価格の6%です。

その6%を原資として、その一部を管理手数料として管理事業者が受け取り、残りが著作権者に分配される仕組みです。JASRACはこの手数料を6%、JRC・イーライセンスは5%としてきました。時々誤解されている方もいるのですが、6%の中の6%ないし5%ですから、ごくごく一部なんですよね。

――手数料が高すぎる、という批判は当たらない、ということですね。

【阿南】カラオケ店などにおける演奏権利用料の取り立てや訴訟が苛烈であったりしますので、その印象が強いのかも知れませんね。しかし、このCDの例のような仕組みや料率そのものについて少なくともビジネスサイドからの批判はほとんどないはずです。ただ、細かなところでは、例えばJASRACではサンプル盤でも使用料徴収の対象としたり、純粋な料率だけでなく「最低使用料」を請求するといったところでは不満があると思います。ビデオについても、たとえ無料の付録であったり、廉価盤でもあっても1分使ったら必ず3.2円支払わないといけないのです。その結果、最低使用料が、4.5%という利用料を超えるという逆転現象も多々起きています。

――なるほど、わずかながらJASRACよりも料率面や合理性で有利だということも分かります。しかし、先ほどの支分権のところで見たように、JASRACに信託すれば全ての領域でやり取りを一元化できるというメリットがある、とも言えそうです。

【阿南】たしかに料率としてはわずかなメリットと言えるかも知れません。ただ、今回予定している統合を契機に、様々な有形無形のメリットを提供できる、と考えています。

――例えば?

【阿南】ほんの一例ですが、イーライセンスは業務用カラオケの委託も受け付けていて、完全に利用回数に応じた分配を行っています。JASRACは品揃えの段階で基本使用料が発生した上でその余の利用回数分配を行っています。そうすると何が起こるかというと、極端な話1回もカラオケで歌われない曲にも印税が配分されます。

現在は通信カラオケが普及しましたから、どの曲が何回再生されたか正確に把握できます。昔の8トラックのころのカラオケの名残で、古くからの作家にとってはそれが当たり前の、一種の既得権益のようになってしまっているのです。本来は、利用回数に応じてフェアに分配すべきですが、若手の作家にとっては、歌われていないにもかかわらず、利用料原資を持っていかれてしまうという不満が溜まっていくことになります。

――アナログの時代では当たり前だった、あるいはやむを得なかった仕組みが、デジタル配信の普及で現状に合わなくなってきている、ということですね。

【阿南】使用料規程・手数料率の在り方が昭和の時代から変わっていない。ドラスティックな改変が進まないのは残念だと思います。計算システムのようなITインフラの改修にも手間と時間が掛かると思いますので、JASRACにもジレンマがあるでしょう。

「JASRACが現在もなぜ6%の手数料を徴収するのか」、その理由がレコードメーカーからも分かりづらくなっています。私自身メーカーに長く居たので分かるのですが、メーカーの側も、どのアーティストのどの曲を使っているかレーベルコピー(編成表)を書いて、JASRACに提出していますから。率直な話、自分たちで著作権者に直接払えるんですよ。デジタルか否かにかかわらず録音物・録画物についてはもともと不満がありました。

これが、テレビ・ラジオといった放送になると、使用実績が分かりにくかった。そのため、JASRACが52週間のうち13週間サンプリングして、みなしの使用料を割り出していたわけです。人海戦術となりますから、これはコストが掛かる。つまり手数料がある程度高額なのは納得だったわけです。しかし現在はこれもデジタル化されましたから、全曲報告が容易に行える時代になっているわけです。でも、放送の使用料は10%、ライヴは26%という高額な手数料率となっています。「作家を守る」という立場から簡単にこれを下げられないのです。