地域ブランドを磨き続ける地元の協同組合

イタリア半島北東部のエミリア・ロマーニャ州にはイタリアを代表する食産業のフード・クラスターが点在している。チーズやハムの産地として知られる地方都市がパルマである。イタリアには「DOP」と呼ばれる原産地名称保護制度がある。DOPが定める農産物、農産加工品はさまざまだが、パルマの代表的なチーズである「パルミジャーノ・レッジャーノ」もその一つだ。パルマやレッジョ・エミリアなどエミリア・ロマーニャ地方の特定の地域でつくられて、なおかつ素材や製法、熟成期間など一定の基準を満たしたものだけがDOPの審査をパスして刻印が押され、「パルミジャーノ・レッジャーノ」を名乗れる。品質検査でDOPの刻印がもらえなければ二流、三流のパルメザンチーズ(パルミジャーノ・レッジャーノ風チーズ)として売るしかない。しかし、「パルミジャーノ・レッジャーノ」として輸出できれば何倍もの値段で売れる。世界中のイタリア料理屋で使われるからだ。

イタリア・パルマの代表的なチーズ「パルミジャーノ・レッジャーノ」。(写真=時事通信フォト)

パルマの特産品でいえば「プロシュート」という生ハムもDOPが義務付けられているが、大事なことはそうした地域のブランド認証を日本で言えば農協に当たる地元の協同組合的な組織が積極的に行っているということだ。

日本の農協は上から目線で地域の付加価値を何も生み出さないが、向こうは違う。DOPの認証機関として厳しく品質を見定めて、ときに生産者を指導して、必死になって地域のブランドを磨いている。前述のコモ同様、マーケティングや人材育成まで手掛けている。だから生産者は販路や後継者のことで頭を悩ませる必要はない。いいものさえつくれば、きちんと世界に売り出してくれる。誰もが自分の仕事にプライドを持ち、何より生活が豊かだ。子供も親の仕事を継ごうという気持ちになってくるし、実際、2代目、3代目がたくさんいる。

ワインなどもDOP(ワインの場合はDOC、DOCGなどの呼称が使われることも)で管理されていて、美味しくてリーズナブルなイタリアンワインは世界中で人気を博している。

日本でいえば、新潟県南魚沼産のコシヒカリや山形県の佐藤錦などはブランド価値が非常に高い。しかしDOPのような認定制度で守られていないから、「南魚沼産コシヒカリ」と名乗る商品は実際の生産量の20倍も市場に出回っている。佐藤錦を開発した先人は心が広い人物だから、種が世界中に広まってしまった。逆に揚がった漁港というだけで差別化の基準も不明なまま、「関サバ関アジ」「大間のマグロ」などの怪しげな日本だけで通じるブランドが闊歩している。商品に差がないのに陸揚げ港の名前をつけて価格を数倍にするのは“いかさまマーケティング”だ。

日本の地方自治体、市町村がイタリアの地方都市に学ぶべきことは多い。国家や政府に頼らず、自力で世界化する方法を考えるべきだろう。DOPのような工程や品質に関する認証制度を活用してブランドを立ち上げて、世界に直接売り込むのも一つの方法だ。中央集権の国で「地方創生」など叫んでみても生温いリップサービスにすぎない。国破れても地方都市あり、という時代をつくり出すことが、日本が生き残る道であり、イタリアにこそ、その素晴らしい具体例が溢れているのだ。

(小川 剛=構成 時事通信フォト=写真)
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