人々が知りたいのはアイデアよりプロセス

TEDにおけるスピーチは、なぜ人々を惹き付けるのでしょうか。その理由は、アイデア、伝え方、話し方の3つに整理して考えるとわかりやすいと思います。

もともとTEDは、広める価値のあるアイデアを世界に広げていく場です。では、世界に広める価値のあるアイデアとはどんなものか。それは陳腐な人まねのものでない、世界でただ1つのユニークな発見や経験と、そこから得た学びです。そうしたオリジナルのアイデアが数多く集まっていることが、TEDのスピーチにおける第一の特徴です。

自ら手を動かして見つけた発見や、びっくりするような経験を通じて身をもって学んだ教訓。それを当事者が自ら伝えるところに、TEDの醍醐味があるのです。

オリジナルなアイデアに行き着くには、挑戦のプロセスが不可欠です。しかし、何か新しいことに挑戦すれば、大なり小なり必ず失敗がつきまといます。そのなかでもがき苦しみながら困難を乗り越え、最終的に手にした成功。人々が一番知りたいところは、そのプロセスです。いかに葛藤を乗り越え、そこから何を学んだか。

成功の光のあたる側面にだけ焦点をあてるのではなく、その背景にある影の側面にまで心を開いて話していくことが、人を感動させる秘訣なのです。

では、オリジナルなアイデアをどうやって伝えているのか。TEDの2つ目の特徴がこの伝え方にあります。

TEDには、「18分以内で伝えきる」というルールがあります。18分あれば、たいていのアイデアは伝えることが可能です。そして、聞き手にとって、18分は集中力を十分継続できる長さです。加えて、インターネット配信を視聴するとき、動画の時間が長いと視聴に躊躇してしまいますが、18分以内であれば、ちょっと空いた時間を使って気軽に見ることができるでしょう。この18分以内というルールが、伝え方にいくつかの特徴を生み出してもいます。

話し手にとっては、アイデアや経験を実際に話そうとすると、18分という時間はかなり短いと感じるはずです。したがって、自分がもっとも伝えたいメッセージを明確にしなければなりません。この時間制限があることによって、そもそも自分は何を伝えたいのかということを明確にする必要に迫られます。直感的にはわかっている学びを改めて言語化する作業が必要になってくるのです。その結果、話し手のメッセージは非常に明確に研ぎ澄まされていくのです。

さらに、スピーチのオープニングは聞き手をハッとさせるように、単刀直入にストーリーや話の核心に入っていきます。通常のスピーチでは最初に自己紹介したり、話のテーマを簡単に紹介したりしますが、TEDではスピーチの直前に司会者がその役割を行うので前置きは不要なのです。

クロージングは本当に伝えたいメッセージを印象に残る言葉で伝えています。TEDに限らずクロージングはメッセージを聴衆の心にしっかり焼き付けるパートであり、オープニングと同様に非常に工夫が凝らされています。

図を拡大
TED Talkの特徴

TEDの3つ目の特徴である話し方は、話し手が体をフルに使って聴衆に直接語りかけるスタイルが際立っています。そのための舞台装置も工夫されていて、TEDのステージに目を向けると演台がなく、ハンドマイクではなく、ヘッドマイクが使用され、スクリーンは後方上部に配置されていることに気付きます。つまり話し手と聴衆の間をさえぎるものが何もなく、目の前の聴衆に対し自由に語りかけられるようになっているのです。

壇上をフルに使って動き回ったり、パフォーマンスを行ったりすることも可能で、生身の人間である話し手の迫力がしっかり聴衆に対して伝わりやすくなっているわけです。

もちろんスライドや映像も使用できるようになっています。言葉と体とビジュアルを総合的に使った究極のメッセージ発信の形が、TEDであると言えます。