13年9月に東京オリンピック開催が決まり、JSCは当初計画の事業費1300億円に近づけようと試算をつづけたが、今年1月には総工費が3088億円かかるうえに、完成目標の19年3月には間に合いそうもないと判明。
ここから、各メディアで批判の声が高まってくる。
「民間企業のプロジェクトマネジャーたちは、今回の騒動を見て『何をやっているんだ、しっかりしてくれよ』と呆れているのでないでしょうか」
開発チームの生産性向上に30年近く取り組んできた経験から、そう語るのはインパクト・コンサルティング代表取締役の倉益幸弘氏だ。同社のコンサルテーション「インパクト・メソッド」は、これまでトヨタ、キヤノンをはじめとする200社以上が導入し、延べ1万5000人以上の開発マネジャーや技術者が経験したという。
「開発プロジェクトではクオリティー、コスト、デリバリーのQCDでそれぞれ目標を設定し、その達成度を測るのが基本中の基本です。民間企業のプロジェクトで、もしコストが計画の3倍近くに膨らんだら、責任者のクビが飛んでもおかしくありません」
総事業費が数千億円規模のプラント建設、世界で数百万台を販売する自動車の開発でも同じだ。
ここでいうクオリティー(Q)にはスペック、技術レベル、品質などいくつもの要素があり、プロジェクトごとに目標が設定される。人件費を含めたコスト(C)、工期や納期を示すデリバリー(D)も同様で、倉益氏も「当初の狙い通りに、完璧に進んだプロジェクトは見たことがない」というほど、QCDすべての目標を達成するのは至難の業だ。
しかし目標未達にも限度があるだろう。新国立競技場の場合、ザハ・ハディド氏の斬新なデザインを実現し、128項目の要望を満たせばクオリティーは目標達成となる。一方、20年の東京オリンピック開催までに完成させるというデリバリーは厳守。そうなると、QCDの残る一つであるコストが目標から大幅に外れて膨らんでしまう可能性は高い。ここで多くの税金が投入されてしまうことは問題だ。