では、告発と糾弾の質がネットになって下がったかといえば、そうともいえないのがまた困ったところなのだ。ノイズまみれとはいえ傾聴に値する言説も少なからず出るネットのほうがましなくらいである。

かつての新聞雑誌ではもっと有意義な議論が行われていたと思いがちだが、ろくでもない論調ばかりだった。当然蓄積もされず、その点でもネット以降と変わるところはない。著作権に対する理解なども総じて高くなく、目を覆う暴論も散見された。人格攻撃だって、程度の差はあれ、なかったわけではない。人間というのは変わらないものなのだ。

ネットの不特定多数にイニシアチブが移ったことで生じた特有で最大の問題は、したがって、人格攻撃に流れた人間の本性的な「正義」が、止めどなくエスカレートする「サイバーカスケード現象」[※2]に見るべきである。集団極性化の一種であるこの現象は、要は、床屋談義も付和雷同する輩が極端に多くなると先鋭化して危険だという話だが、有効な対抗策がない。

マスメディアにもサイバーカスケードを止める力はむろんないが、せめてバイラルメディアに便乗するような真似は慎むべきだったろう。佐野氏への糾弾が「ネット私刑」になった責任の多くはマスコミとバイラルが結託したことにある。その事実をもっと自覚するべきである。

※1:NHKオンラインの記事は9月9日現在、削除されている。朝日新聞デジタルの記事は〈エンブレム酷似、ネット発の追及緩まず 「 検証」が続々〉というタイトルに変わっている。
※2:シカゴ大学ロースクールのキャス・サンスティーン教授は、『インターネットは民主主義の敵か』(毎日新聞社)で、特定の意見をもった人たちがインターネットを通じて短期間に結びつき、「カスケード(階段状の滝)」のように人々を押し流す現象を「サイバーカスケード」と名付けている。

(写真=時事通信フォト)
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