手術支援ロボットには賛成できない
この欄でも、何度か強調してきたように、私自身は、「早い」「安い」「うまい」手術を日々追求しています。その基準からみると、いまの手術支援ロボットによる心臓手術は、一般的な外科治療に比べて手術時間が長くなり、「早い」という部分を追及できない治療法です。もともと、外科学は、手術のスピードを追及することで進歩してきています。私自身は、それに逆行するような治療法は、ちょっと違うのではないかと思います。しかも、機械が高額であるだけに治療費は「高い」ですよね。また、「うまい」という要素ですが、それを使えば一段二段高いレベルでやれるのかというと心臓病治療に関しては、現時点ではそういったデータは皆無です。
「早い」、「安い」、「うまい」のすべてを充足しないということで、個人的には手術支援ロボットを使った治療に積極的に関わるつもりはないのです。確かに、前立腺のように従来型の手術だと見えにくい場所には、内視鏡を使って拡大して病巣とその周囲が見える手術ロボットを使う意義は大きいと思います。しかし、心臓血管外科の中では今のところ、手術ロボットを用いる意義が見出せません。
手術支援ロボットを使った治療法については、しばしば、手術によるキズが小さく痛みが少ないということが強調されます。でも、キズの大きさや直後の痛みより何より大事なのは、病気をきちんと治すために完成度の高い手術をすることです。医者の不遜かもしれませんが、私が行っている心臓外科手術は、できるだけ痛みを抑える治療も含めて合併症を抑える努力を心臓外科チーム全体で行い、患者さんが術後のつらい時期を乗り切ってくれれば、長期の成績はいいという手応えを持っています。
通常の外科手術でも、以前に比べると、痛みのコントロールができるようになり手術直後の患者さんの苦痛は少なくなってきました。手術のキズに関しても、心臓病が治って元気になったら手術のキズが気にならなくなるように丁寧に縫っていますので、一般的には、1年後くらいにはほとんど気にならない程度になっています。手術の結果だけではなく、手術のキズに関しても、患者さんの満足感が得られるような結果を残すようには気を遣うようにしています。
ただ、キズがきれいかどうかは、命が助かったか、病気が治ったか、患者さんの生活が改善したかといった医療の本質とは関係のない評価です。治ったからこそキズのことが気になるのであって、患者さんの側も「低侵襲」「キズが小さい」「最新治療」といった宣伝のような言葉に踊らされないようにして欲しいと思います。