民泊仲介サイトは利用者に法令順守を要請しているが、一般住宅を提供する個人の大半が、自治体の許可を得ていないとみられている。厚生労働省生活衛生課は昨年7月に「泊める場所が自宅でも許可が必要」と自治体に通知し、周知徹底を求めている。また、昨年5月には警視庁が、東京・足立区の英国籍の男性を「自宅などに無許可で外国人を泊めた」として旅館業法違反の疑いで逮捕。男性は、足立区の再三の指導にも「友達を泊めているだけ」として、したがわなかったという。旅館業法を所管する保健所の担当者は「苦情でもない限り、民泊の実態の把握は困難で、指導につなげるのは難しい」と違法性の判断に困ると嘆く。

ところが、戦略特区で民泊に必要な条例を整備した自治体はいまだにないのが実情だ。それどころか大阪府では、昨年10月、マンションなどの空き部屋の宿泊施設への活用を特例として認める条例案が「旅行客が他の住人に迷惑をかける恐れがある」として府議会で否決された。しかし、民泊の急増で法的な対応に迫られ、「立ち入り調査を行い、改善しなければ営業許可を取り消す」という条項を盛り込んだ条例案を、再度府議会に提出する予定だ。

一方、旅館業者は民泊の広がりに対して防災や防犯、衛生などの不安を指摘する。民泊の問題に取り組んできた全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の佐藤信幸前会長は、「厚生労働省の要請で旅館業者は、感染症にかかった人の足取りを追えるように外国人客の旅券のコピーや宿泊記録などを保管している。フロントもない個人宅で感染者の把握は難しい。テロや麻薬、売春など犯罪の温床になる可能性もあり、定められた法の下で営業すべきだ」と話す。

外国人バックパッカーらが泊まる「ホテルニュー紅陽」(東京・台東区)を営む帰山博之氏も複雑な表情で語る。

「一般の人がネットで客を取る民泊が広まれば我々はあおりを受ける。消防法などによる設備の負担がない民泊と競争するのは大変だ。以前は満室だったが、空き室が増えている」

観光庁は厚労省などと実態把握等の検討を行うというが、法律上の位置づけが明確でない民泊の「法的グレー営業」は好ましい状態ではない。

(PIXTA=写真)
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