“無礼な相手に思いやりは不要!”
フランス・ドュバール氏がビッキー・ホーナー氏と行った調査で、2匹のチンパンジーにバケツいっぱいの2色のコインを与え、1匹だけに1個を選ばせる実験があった。選択者のチンパンジーが赤色の「利己的コイン」を実験者に渡すと、右の彼しか餌を受け取れず、左の彼女は餌をもらえない。緑色の「社交的コイン」を選ぶと2匹とも餌を得られる。
選択する側はいずれにしろ餌がもらえるため、どちらのコインでも構わない状況だ。無差別に選ぶかと思うのだが、選択するチンパンジーは緑色の「社交的コイン」を好むという。無差別にパートナーのチンパンジーを選んだ場合の確率は50%ながら、パートナーが注意を引くような相手の場合には確率が高まっていく。
ところが、水を吐きかけて威嚇するなどパートナーが強く圧力をかけすぎると、この確率は下がっていく。“無礼な相手に思いやりなど必要ない”というわけだ。この実験で、チンパンジーは他者の幸せを思いやり、特に同じ群れの者には気を配ることがわかるだろう。
ドュバール氏は、「モラルは進化するものだと考えます。動物に学びながら、モラルの進化論を探究するのです」と語っていた。
私たちはサルではない。けれどもチンパンジーの行動をみていると、私たちの言動にも思い当たることがありそうだ。人はサルよりは若干知能が発達しているかもしれないが、同じ霊長類であることに変わりはない。基本的な霊長類の本能、本質を知っておくことは、群れを率い、互いの関係性をうまく保って成功に導くことに役に立ちそうである。
[脚注・参考資料]
Frans de Waal: Moral behavior in animals, TED Peachtree , Nov. 2011