サルの行動から考える、人間関係の構築法
現代社会においては、仕事や学校などで日常的に競争の中に身をおくことが多い。競争をすることであらゆる成績や成果は伸びることが多く、富を生み出すのも確かだろう。ところが競争によって互いの信頼関係が失われがちな場面もみられ、チーム内での競争はかえって逆効果だ。そこで、人も生物であるという視点から、私たちが持ち合わせる共感などの本能について学ぶことで、よりスムーズな人間関係が築けるかもしれない。
動物行動学者のフランス・ドュバール氏は。「共感は人間が新たに獲得した特性ではなく、脳の古い層の作用である」としている。共感、協力、公平さ、そして互恵――。われわれは他人の幸せを思いやる行為は人間臭いものだと思いがちながら、人間と動物の行動が、モラルという面で共通しているというのだ。
たとえば、昔のNHKの番組で、権力・支配・攻撃の一面が垣間見られる、こんな風な実験があった。男性と女性がバナナを持って立ち、サルにバナナを取らせるというものだ。どちらからバナナをとるだろうか? もちろん、比べてみて弱そうな女性からだ。体の大きさがほぼ同じ男女でも、腕力の弱いであろう女性から。同じ服装をして顔を隠しても同様の結果になる。では、ふたりとも同じ体格で同じ性別ならどちらからか……。それは、威嚇してひるんだほうからだ。利益をとるなら、まずは自分よりも弱いであろう相手に襲いかかる。これは、人間にもまったく同じことが言えるだろう。
ドュバール氏は講演で、同じ霊長類であるチンパンジーは、競争や攻撃性がすべてだと考えられていたが、実は争いのあとに和解をすることが発見されたと語っていた。ケンカのあとに一方が相手に手を伸ばすと、互いに歩み寄ってキスを交わすという。人も同様に、大切な関係が争いで傷ついた時に、なんとか元通りにしようと働きかける。こうした行動をとるところから、協力的な生き物でありモラルがあるとみられるのだろう。
“モラルの基礎”のひとつは 「互恵」という、正義や公平と関連するもの。もうひとつは 「共感と思いやり」だという。人間のモラルとはもっと幅広いものながら、同じふたつの柱であるというのだ。
人間社会や人間同士の関係性に照らしてみると、どのような影響があるのだろうか。