冷風より20~25倍の早さで凍結
焼き肉屋などで牛肉を焼いたときに表面から赤い肉汁がしみ出してくることがある。いかにも食欲をそそるが、実はこの肉汁こそ冷凍した肉を解凍したときに出てくるドリップである。ドリップはタンパク質やアミノ酸など栄養素やうまみ成分で、ドリップが生じれば食品の味や品質は劣化する。だから、新鮮な生肉では肉汁など出ない。
テクニカンでは冷凍によるドリップ量の比較実験を行っている。国産牛肉をマイナス27度の冷風と、自社の「凍眠」で凍結させた肉、そして凍結していないチルド肉の3種を比較した結果、冷風では牛ロース肉の重量の4.5%がドリップとなったのに対して、凍眠では0.4%、チルド肉では0.2%だった。凍眠で冷凍・解凍した肉は、ほぼ生肉に近いことがわかる。
マグロもテクニカンで試食したが、牛肉同様にドリップはほとんど出ていなかった。同社の創業者で社長の山田義夫(68歳)は「プロの料理人でも『凍眠』で冷凍・解凍したものか、生か見分けがつきませんよ」と笑う。
なぜ、こんなことが可能なのか。
「通常の冷風による冷凍機では、冷凍時に細胞内の水分が凍り、100~200ミクロンサイズの結晶を作ります。肉や野菜の細胞の大きさは20~30ミクロンですから氷が細胞膜を破壊してしまい、成分が失われるのです。ところが、凍眠のように液体を使った凍結では冷風よりはるかに早く凍結できるので、氷の結晶サイズが5ミクロンほどに留まります。凍結速度が遅いと、氷は突起状の結晶になって細胞膜を内側から破りますが、凍結速度が早ければ結晶は小さく丸みを帯びた形になり、細胞膜を傷つけないのです」と山田はわかりやすく解説してくれた。
冷凍速度の違いは、気体と液体の熱伝導性の差にある。
「気温90度のサウナで人はがまんできるのに、90度のお湯には指も入れられないでしょう。それほど気体と液体ではカロリーのボリュームが違うんです。液体のカロリーは気体より2500~3000倍も大きいのです」
山田が言うように、空気は水に比べて密度が桁違いに小さく、分子の数が少ないので、熱を伝えにくいのだ。液体の方が熱伝導性に優れ、圧倒的な速さで対象物を凍結させることができる。
「凍眠」では、水にエチルアルコールを60%添加した水溶液をマイナス30度まで冷やして凍結させる。厚さ1センチのステーキ肉を凍結させるのに冷風なら1時間もかかるが、「凍眠」ではわずか3分。厚さ2センチの牛肉でも8~10分で凍結できる。つまり、冷風よりの凍結速度が20倍速い。最上位機種の「TUST」なら、マイナス40度の水溶液を使い、凍結速度は25倍の早さだ。