所得税と法人税……追徴の“往復ビンタ”

サラリーマンの中には「自分たちもスーツ代や冠婚葬祭費などの必要経費は掛かる。だから実際に掛かった金額を給与から差し引いて税金の計算をさせろ」という声もありますが、それはナンセンス。なぜなら給与所得控除という概算の必要経費の控除が認められているから。例えば年収800万円のサラリーマンならその金額は200万円。スーツ代や交際費をそこまで使い切るサラリーマンがどれだけいるでしょう。現状のほうが税額は少なくて済むはずです。

節税と思って行うことで危険なのは、社長が家族旅行のような個人の経費を会社につけ回す行為。

「研修目的」などという屁理屈だけで損金と認められることはなく、否認されるとこれらの経費は社長への賞与となる場合があります。賞与だと、社長個人に所得税・住民税が追徴されます。そのうえ、社長に対する賞与は損金にならないので、会社には法人税も課税されるという“往復ビンタ”が待っています。「否認されても、損金に入れる前に戻るだけだから、ダメもとで会社の損金に入れてしまえばよい」というわけにはいかず、正しく申告するよりも税負担が増えるリスクがあるのです。

税務調査で最もやってはいけないのが「税務署員に仕事をする気にさせる」ことです。税務署員のご機嫌を取る必要はまったくありませんが、公務員として淡々粛々と仕事をしているだけの税務署員の正義感を無駄に刺激することは避けたほうがよい。

何でも理由をつければ、あらゆる領収書が経費になると考えるのは危険です。一般の人向けに書かれた派手な節税本は、あくまでエンターテインメントとして読むもの。あまり中身に目くじらを立てたくはありませんが、もし鵜呑みにして追徴課税を受けても、著者は税務署との交渉などしてくれませんよ。

吉澤 大
1967年、埼玉県生まれ、明治大学卒業。94年、吉澤税務会計事務所開設。著書に『つぶれない会社に変わる! 社長のお金の残し方』『一生食べていくのに困らない 経理の仕事術』ほか。
(撮影=石橋素幸、宇佐見利明)
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