海外では、「ほどほど」なライフスタイルを積極的に社会に組み込む流れが既に生じている。オランダは短時間正社員制度の導入によりワークシェアリングを広げることで女性の人材活用に成果を上げている。また、米ピュー・リサーチ・センターの報告書によると、米国では1989年から2012年までの23年間で「専業主夫」の数が約2倍の200万人に急増しているという(※2)。米紙ニューヨークタイムズは彼らを「Stay-at-Home Dads」と呼び、「家にいる価値を認めよ」と連帯して主張する様子を紹介している。プライベートとパブリックを個人的努力で架橋してきた前例を元に「すべてを実現できるキャリア女性を目指せ」と迫る国内の現状は、昭和のモーレツ社員のグロテスクな進化版にみえてくる。

「ほどほど」に働いてプライベートを重視したい人は老若男女を問わず存在するはずだ。現状を打破しながら新しい社会を構想する方策を真剣に議論するのであれば、企業や政治などのパブリックの在り方を変えるという視点こそが不可欠である。それにもかかわらず、ネットでの反応に見られるように、専業主婦と働く女性を相対させる立論が後を絶たない。両者に生じている齟齬は、パブリックを優先させたためにプライベートが排除されるという、従来の社会構造の延長に生じる問題である。それを隠蔽し、女性同士のヘゲモニー争いに落とし込む視点がむしろ「保守的」で、古いのだ。

こうした古さと戦ってきたのが、白川さんを含む「雇均法第一世代」ではなかったのか。編集部を通じて大和証券に記事の反響について問い合わせたが、「特にコメントはない」(広報部)という回答だった。しかし、一部の経営者は、プライベートの充実がいい仕事の条件だと気づき、多様な働き方を認めることで企業の持続可能性を高めようとしている。一方で、安倍政権のいう「すべての女性が輝く社会」には、「女性管理職を3割に」という数値目標はあるが、環境変化に対応した具体的なモデルがみえてこない。既に走り始めている民間企業に比べ、鈍感すぎるのではないか。

※1:我が国の子育て支援に代表される家族関係社会支出の対GDP比はOECD諸国の中でも極めて低いが、その背景のひとつに福祉の担い手としての専業主婦による寄与がある。
※2:Growing Number of Stay-at-Home Dads─Pew Research Center's Social&Demographic Trends Project http://www.pewsocialtrends.org/2014/06/05/growing-number-of-dads-home-with-the-kids/

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