社会構造の問題が女性同士の「争い」に

その例のひとつが、「夫は外で働き妻は家庭を守るべきである」とする性別役割分業への賛否だ。2012年の内閣府世論調査では「夫は外、妻は家庭」を支持する者が半数を超えたが、とりわけ注目を集めたのは「賛成」とする若者の増加だった。家族社会学者の山田昌弘は、これを劣悪な経済状況にあえぐ若者の「専業主婦へのあこがれ」の表れとし、硬直化した労働環境が若者の保守化を招いているとしている。

だがこの指摘には、1980年代以降に起きた専業主婦の変容を踏まえていない点で問題がある。

彼らの親は、男女雇用機会均等法の「第一世代」であり、フルタイムでの勤務と子育ての両方を経験している。実際に若者に話を聞いてみると、彼らがイメージする「専業主婦」とは腰掛けの仕事や寿退社を経て一生を家庭で過ごす1980年代以前のライフスタイルではなく、「雇均法第一世代」の生き方、つまりフルタイムを経験した後に出産と育児で仕事を一時中断し、再び社会に戻る人生を指していることがわかる。

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「専業主婦」志向は下げ止まっている

こうした傾向は、国立社会保障・人口問題研究所による18~34歳を対象とした「独身者調査」の結果を見ても明らかだ。女性の回答をみると、1990年代以降、「理想とする人生」として支持を集めているのは再就職であり、専業主婦を選ぶ割合は大きく減少している。同様の傾向は男性にも見られ、人生の時期にあわせて働き方を変えながら全体としてプライベートとパブリックのいいとこ取りをはかるバランス感が若者たちの選択にあらわれている。

20代以降の若者は、日常生活を大切にしながら経済活動にコミットするという選択肢を経験的に知っていると私は見ている。若者の労働に詳しい社会学者の阿部真大は、彼らの生活感覚を「ほどほど」と表現し、地元で親や友人に囲まれながら「ほどほど」に暮らす若者は現在の社会基盤のひとつとなりつつあるとしている。「すべての女性が輝く社会」にまつわる現在の論調は、若者の先見性に対応できていない。