塾というバックアップシステム

公教育が「与えられた教育」であるとするならば、民間教育は「自ら求める教育」といえる。その2つがあることで、日本の教育は常にバランスを保ち、かつ、柔軟に進化し続けることができた。仮に国が、国民の意に反した教育を国民に押し付けたとしても、私たちには塾で学ぶという選択肢が残されている。これは、世界でもまれに見るハイブリッドな教育システムなのである。

学校システムにさまざまな問題が指摘されている今、全国に約5万あるといわれる塾という教育資産を活用しない手はない。しかし、それは単に塾を学校教育に組み込むとか、塾を文科省の管轄下に置くとかいう話ではない。むしろ学校システムや教育行政を監視し、補完する役割として、また子どもやその親たちのニーズを映し出す鏡として、塾のもつ機能に期待したい。

もし今、塾がなくなったら、保護者は今以上に、学校に受験指導を要求するようになるはずだ。そうすれば学校は今の姿を保てなくなる。塾があることで、学校は学校の本分をまっとうできているのだ。塾があることで、実はこの国の学校文化が守られてきた部分があると言える。

また現在、塾があることで、子どもたちは自分に合った勉強方法を模索することができているとも言える。もし今、塾がなくなったら、受験生は全員、学校の指導に従わなければいけないことになる。学校の指導が自分に合わないと思っても、逃げ場がなくなる。

塾というと「必要悪」というイメージが強いが、実は塾があることで、この国の教育の多様性と安定性が保たれていることは、忘れてはいけない。

「教育再生」のかけ声のもと、今この国では、大胆な教育改革が断行されようとしている。うまくいけばいいが、リスクも大きい。その意味で、塾というバックアップシステムは、この国最大の資産といっていいかもしれない。

日本における塾の歴史や、時代時代における存在意義、また、塾の最新事情については拙著『進学塾という選択』を参照されたい。

おおた としまさ
教育ジャーナリスト

麻布高校卒業、東京外国語大学中退、上智大学卒業。リクルートから独立後、数々の教育誌の企画・監修に携わる。中高の教員免許、小学校での教員経 験、心理カウンセラーの資格もある。著書は『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』『男子校という選択』『女子校という選択』『進学塾という選択』など多数。
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