一人っ子政策の段階的見直しで出生率回復も

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図2:中国における労働力人口の推移

ただ筆者は、目下の人手不足については制度の欠陥に由来した部分が大きく、諸制度の改革を果敢に進めれば、人手不足が緩和され、持続的な経済成長の期間を広げることが可能だとみている。

都市部の就業率を低下させ、労働力の有効利用を妨げている制度の一つに、時代遅れの定年制度がある。原型は58年に制定施行され、平均寿命が70代後半と大きく伸びた今日でも、生産年齢は男性15~59歳、女性が15~54歳。男女差があるうえに、国際基準(15~64歳)ともかけ離れている。定年退職の年齢引き上げは、人手不足の緩和に寄与する重要な要因である。

中国の労働力人口は、今の法定退職年齢を基準に計算されている。そのため、国際基準に基づくそれとは総人数がピークを迎える時期が異なるため、長期的な推移も大きく違う形で表れる。図2を見ると、法定退職年齢に基づいた生産人口(図中B)は11年にピークを迎えたが、国際基準(同A)なら16年まで増え続ける計算となる。AとBのギャップ(棒グラフ)は、25年には約1億6700万人に拡大する見込み。20~39歳の人口(同C)は02年にピークを過ぎたとはいえ、国際基準まで働ける労働環境を構築すれば、この膨大な潜在労働力を活用できる。

そのためには、農民と市民を区別する戸籍制度を改革し、農村戸籍を持った農民工の就業選択・移住の規制を緩和することが有効だ。現行制度下では、青壮年期を過ぎた農民工の多くが田舎への帰還を余儀なくされている。農村・都市間における人口移動が、移住型ではなくこうしたUターン型であり続けたため、12年の第一次産業従事者2億6000万人という数字は、80年に比べてわずか3000万人しか減っていない。

この間、耕地面積が減少し、農業の機械化も飛躍的に進んだ(総動力が7倍増)。中国農業は依然、膨大な余剰労働力を抱え込んでいると見てよい。今後、戸籍制度を改革し、毎年中高校を卒業する800万人の農家子弟を都市へ移動、移住させても、農業経営に大した支障がないはずである。そうなれば、都市労働市場への供給も持続できるであろう。

もっと先の経済成長を見込む際に重要なのが、一人っ子政策の段階的見直しである。14年初め、一人っ子同士の夫婦であれば2人目の子の出産を認めるという規制を緩和し、夫婦の片方が一人っ子でも、2人目の子の出産を認めるとする改革が実行に移されている。今後は、出産制限が徐々に緩和されていくだろう。

中国では確かに少子高齢化が進み、生産年齢人口も近く減少する局面に突入する。生産年齢人口の比率増も鈍り、高齢者の介護や医療の費用が重くなる社会が目前に迫っている。

しかし、中国政府は戸籍制度、定年制度、一人っ子政策など非合理的な制度の改革を加速させ始めた。過去30余年間、様々な欠点を内包しながらも大きな経済的成果を上げてきた政府の執政能力を見れば、制度改革および経済成長の持続は十分に可能だろう。ただ、国内外で諸改革の進行・効果に対する懐疑的な見方も少なくなく、かつ各方面の利権に絡んだ強い抵抗も予想される。改革の前途は平坦ではありえまい。

図1:中国の人口転換 ※中国統計年鑑より作成。
図2:中国における労働力人口の推移 ※A系列は2011年までが中国統計年鑑による実数、12年以降は2010年人口センサスに基づいた推計値であり、B系列は2009年までが2000年センサス、10年以降が2010年センサス、C系列は2010年センサスに基づいた推計値である。

(平良 徹=図版作成)
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