中国経済は「ルイスの転換点」を通過したのか
ところが、04年初め、広東省の珠江デルタで企業の募集定員が集まらず、それまで無尽蔵に供給された安い労働力が不足し始めた。沿海地域の都市部で顕著となった局地的な人手不足は、やがて中西部地域へ波及し、中国経済は全体として労働力を無制限に供給できる状態から相対的・絶対的に不足する状態に移行し、いわゆる「ルイスの転換点」を通過したのでは? とまでいわれている。
ルイスの転換点とは、工業化が進む中で、農業の労働力が工業に移るが、その余剰がなくなるという転換点を指す。労働力が過剰であれば、雇用さえあれば低賃金でも人が集まり、企業は高い収益を上げ、一層の成長拡大も実現できる。が、この転換点を通過した後は、企業は労働力の不足と賃金の急上昇に直面する。国民経済の高度成長も難しくなる。
中国経済がルイスの転換点を通過したか否かを巡っては、意見の分かれるところだが、労働市場では有効求人倍率が1.0超に高止まりし、労働者の賃金が2桁の伸び率で上昇し続けていることは紛れもない事実である。ここで、農村から都市への出稼ぎ労働者=農民工の平均月収の推移を見てみる。90年頃におよそ3000万人弱だった農民工は13年に1億7000万人に膨れ上がり、世界の工場たる中国の製造業を支えている。この農民工の名目賃金は全期間において高い伸び率を見せているが、物価上昇を除いた実質賃金(78年価格を100とした物価指数)は00年まではわずかな伸びに留まり、急伸したのはそれ以降のことである。これを見る限りでは、中国経済はすでにルイスの転換点を通過したといえるのかもしれない。