スーツとシャツは個性より清潔感が命

ビジネスマンとしての基本を問えば、第一に誰からも「身なりを整える」という答えが返ってくる。これは「高価なものを身につける」という意味ではない。世界のエリート集団ともいえる、ゴールドマンやマッキンゼーであっても例外ではないと戸塚さんは語る。

「ゴールドマンやマッキンゼーの社員は、皆一様に白いシャツ(または無地の薄いブルー)にダークスーツという、まるで制服のような驚くほど没個性な服装が特徴。彼らが外見で重視しているのは、あくまでも『清潔感』。決して『個性』を強調するものではない」

地味でも仕立てのいいオーダーメードスーツを着こなす人もいれば、過度にこだわらず一般的な価格のスーツを選ぶ人もいるよう。なかには襟が擦り切れるほど、シャツを大事に着るアメリカ人シニアバンカーもいたというが、汚さやみすぼらしい印象はまったくなく、一様に「清潔感」が共通しているのだという。

「私自身、卒業後外資系の金融機関に入社したので、服装は自由だと浮かれていたかもしれません。色シャツを着て出社した初日に、先輩からバシッと叩き込まれた。日本独特の考え方かと思ったが、ニューヨーク研修に集まった世界各国の社員が皆、同じような服装だったのには驚きました」

叩き込まれたのは、「顧客の立場で、どうすればいいかを考える」こと。顧客が求めているのは、外見の個性ではなく、中身の個性。外見は、提案する商品のイメージや、自身のアドバイスをバックアップするものである、ということだ。もちろん、業態によって、外見の「個性」を際立たせたほうがいい職種もある。ただし、いずれにしても、相手に不快感を与えるような「身なり」は、マナー違反であるといえる。

「NY研修中、同室になった英国人が、毎朝眠い目をこすりながらシャツにアイロンをかけていた。彼らにとってそれは当たり前。若くてもマナーを大切にする姿勢が新鮮でした」

欧米では、一般的に「Yシャツ」は下着と同等。当然、毎日着替え、アイロンのかかった清潔なものを身につけるのが、マナーなのである。