どんぶり飯、ジャムトースト、おでん
高倉健映画を見ていくと、主人公が食事をするシーンに目がひきつけられる。
『山口組三代目』(1973年 東映)では、ごんぞう(沖仲士)部屋に連れてこられた高倉健が小頭の田中邦衛から、どんぶりメシをふるまわれる。
高倉健は涙を流しながらメシをほおばり、「よその人にこんなに親切にしてもらったことない」と、また泣く。しかし、食べるスピードは速い。
『冬の華』(1978年 東宝)でも冒頭に食べるシーンが出てくる。出所した主人公は所属する組が用意したアパートに案内される。そこにはトースター、食パンなども用意されている。高倉健はパンにジャムを載せ、においをかぐ。口に運ぼうとして、一瞬、ためらい、さらにジャムを載せる。そうして、やっとかぶりつくのである。久しぶりにジャムを載せたおいしいトーストを食べる気持ちがあらわれている。
『あ・うん』では三木のり平との共演シーンがある。三木のり平の役はスリ。ふたりはおでんの屋台で食べながら語り合う。
高倉健は食べる演技が上手だ。少なくとも私はそう思っている。しかし、三木のり平はそのまた上だった。
セリフをポツリポツリとつぶやきながら、少しずつ、おでんを食べる高倉健に比べ、三木のり平はしゃにむに食べる。おでんを口に放り込み、酒をぐっと飲む。水っ洟が出てきたら、すすり上げながら酒を飲む。
そうして、セリフをしゃべるのだが、口のなかのおでんをすぐに呑み込んでいるのだろう。セリフは実に明瞭だ。三木のり平のおでんの食べ方、酒の飲み方、水っ洟をすすり上げる動作、すべてが屋台の客だった。この時ばかりは高倉健はあっけにとられている感じだった。
いずれにせよ、こうした映画を見ると、てきめん、どんぶり飯、ジャムトースト、おでんが食べたくなる。