盛りだくさんの特約を疑え

「保険加入は、クジや賭けに似ています」

後田氏はショッキングな例え方をした。保険は保険会社の売る商品なのだから、保険料にはもちろん会社の経費が含まれている。この経費率を開示している保険会社は1社しかないが、後田氏によると、おおむね20%台だという。

「それは競馬の控除率に近い。威張れる数字ではありません。『就業不能に備えるために馬券を買った。がんに備えるための馬券も買った。もう何があっても心配ない』と言う人がいたら、ヘンでしょう」(後田氏)

会社の経費がかかる分、加入者に払い戻される金額は、トータルでは必ず100%を下回る。だから主たる契約に特約を増やすという選択は、損する機会を増やすことになる。特約の数を増やすほど、保障する期間を延ばすほど、損は膨らむ。あたりまえだが、ギャンブルでは幅広い目に賭ければ損をする。保険も同じことだ。

「だから『より、多くの安心を』という特約のつけ方は間違いなんです。『仕方なく基本契約だけで済ます』という姿勢が正しい。『一生涯の安心を』というのも間違いです」(後田氏)

賭けをする期間は短いほど損を抑えられる。しかし客の多くはたくさん特約がついた商品をありがたがる。特約は会社がサービスで配るおまけではない。そしてたくさん特約がついていれば、その分、商品名も長い。

「『特約付き○○』みたいな、やたら長い商品名がついたパッケージ商品は避けたほうがいいでしょう。ただこんなことを言うと、『特約をつけずに、80歳になったときに保障が切れたらどうするんだ』なんて叱られます。私も営業マン時代は『本当に保険の世話になりたいとき役に立たなくてどうするんですか』と言いながら売っていました。反省しています」(後田氏)

たまに「病気になる、ならないは確率論にすぎない」という冷静な人もいる。だがそんな人も、「では100人中1人しか病気にかからないとして、なぜあなたがその1人にならないと言い切れるのか」と問うと、答えに詰まる。

「お客様と営業マンの間でそういうやりとりが交わされることはありますが、それってヘンな話なんですよ。確率をどう評価するかという問題から、『なぜ言い切れるか』と論点がすり替わってしまっているんですから。でもそう言われると刺さるんです。それくらい不安や恐怖、感情ってコントロールしにくいんです」(後田氏)

だから保険会社は、「そんな人に限って……」というような、恐怖を増幅するCMを打つのだ。逆に「私は保険に加入してすぐに病気にかかった。保険に入っていてよかった」という体験談を話させるパターンのCMも多い。しかし、考えてみてほしい。そんな人ばかりだったら、会社はつぶれてしまうだろう。

一般社団法人バトン「保険相談室」代表理事 後田 亨
大手生命保険会社や乗り合い代理店を経て、2012年に独立。現在は執筆やセミナー講師、個人向け有料相談を手掛けている。日経新聞電子版で「保険会社が言わないホントの保険の話」を連載中。最新刊『保険外交員も実は知らない生保の話』ほか、著書多数。
(話を聞いた人=一般社団法人バトン「保険相談室」代表理事 後田 亨 )
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