EQ研修の最終章はCSP(キャリア・スタートアップ・プログラム)だ。セルフサイエンスが、現在の自分のEQを知り、同僚のEQを知るプロセスだとすれば、CSPはより長いスパンで自己を振り返り、より業務に近い目標の設定を行うことでEQ研修の成果を業務に落とし込むプロセス。医療のたとえでいえば、治療の段階だ。
具体的には、幼い頃から現在までに経験した印象的な出来事や、入社に至るまでの経緯、入社の動機などをワークシートに記入していき、やはり職場のメンバーの前で発表する。いわゆる内観と呼ばれるワークに近い。
「行動の背後には感情がある」というのがEQの根本的な考え方だが、内観を行うことで、感情の源泉となっている出来事をつき止めることができる。さらに、それを職場のメンバーに発表することで、個々人の感情がどのような体験に根差しているかが共有され、「Aさんはこういう体験があったから、こう感じ、こう行動するのだ」という、一段深い理解が可能になるのだ。
過去の体験は、ごくプライベートな内容も含むから、発表しながら感きわまってしまう人もいるという。それに対して、職場のメンバーからは「心の花束」という名目で、アドバイスの言葉が贈られる。最後に、業務目標のコミットが行われ、お互いにフォローし合いながら目標を達成していこうという雰囲気が醸成されていく。
さて、EQ研修が職場の風通しをよくし、コミュニケーションコストを引き下げる効果があることは理解できたが、果たして、業務上の成果に直結するものなのかどうか? 松山氏は言う。
「弊社の業務の柱のひとつはバイクの買い取りですが、バイクは趣味性が高い商品なので、手放すお客様の気持ちがわからないと、なかなか売っていただけないという現実があります。そういう意味で、EQ研修は職場内だけでなく、買い取りの現場でも役立ってくるのではないかと期待しています」
人の心の動きに聡(さと)くなることが、買い取り成績のアップに直結する……。アイケイは、まさにEQ研修の成果を実証するのに最適なフィールドだったのだ。そうか! と膝を叩きたくなる思いで、相変わらず賑やかな職場を後にした。