ネットの潮流は画面からモノへ

「人類史上初めて、われわれはロボットに心を与える」。孫社長は、ペッパーが「感情」を持っていると強調する。相手の表情や声色から感情を推測する日本のベンチャー・AGIの技術「感情エンジン」を搭載。認識精度はまだ粗いが、最終的には「愛」を理解させたいという。

感情学習にはクラウド技術を活用する。会話などを通じて学習した内容をクラウド上のデータベースにまとめ、“全員分”の経験を蓄積することで、学習を加速させるのだ。感情エンジンのクラウドサービスを展開する新会社も設立。ロボットの感情形成に本格的に踏み込む。

またペッパーには吉本興業の血も流れている。発表会で会場を笑わせたひょうきんなトークは、吉本子会社で、ロボットのエンターテインメントコンテンツを手がける「よしもとロボット研究所」によるものだ。

来年2月の発売を前に5月から、ソフトバンクショップの一部にペッパーを設置。客の反応は「想像以上によく、満足度もこれまで見たことないほどのレベル」(ソフトバンクロボティクス代表取締役社長 冨澤氏)という。

プラットフォームの普及戦略は、パソコンをモデルにする。まずは技術者や情報感度の高い層に購入してもらい、ペッパーの魅力や使い方を拡げたうえで一般家庭への普及を狙う。9月には開発者イベントを開いて、ゲームや教育などのアプリ開発を呼びかける。「プラットフォームとして浸透させられれば、自ずと家庭にも普及していくのでは」と冨澤氏は期待する。

技術の未来を見据え、近い将来に普及すると読んだプラットフォームに一気にマーケティング費用を投じ、先行者利益を得る――ペッパーの戦略はいかにもソフトバンクらしい。2001年にスタートしたADSL事業では他社を圧倒する低価格とモデムの無料配布で加入者を急増させた。iPhoneも08年から扱い、先行者利益を得てきた。

今、パソコンやスマートフォンなど「平たい画面の中」のインターネットは成熟し、創造の余地が小さくなっている。一方で、時計やカメラ、眼鏡などの“モノ”がインターネットにつながり、新たな役割を与えられつつある。日本のメーカーがロボットから相次いで撤退する一方で、グーグルなど米国のネット企業がロボットに投資を加速している。インターネットの主戦場が「画面」から「モノ」に移りつつある中、ソフトバンクがロボット市場でも先行者となりうるか。挑戦が始まった。

(遠藤素子(冨澤氏、Pepper)、小倉和徳(発表会)=撮影)
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