ロボットの行動で人の心理や行動は変わる?
高齢化社会や労働力不足などの社会的課題が増える中で、ソーシャルロボットが介護や医療、教育、接客などの分野で人間のサポートを行うことが期待されています。ソーシャルロボットとは、人間との社会的なやりとりをすることを目的としたロボットのことです。近年のChatGPTに代表される人工知能技術やハードウェア性能の向上により、人間とロボットのコミュニケーションはより現実的で実用的になり、その影響を研究する意義が増しています。
ソーシャルロボットの研究の主な目的は、ロボットを社会的に受け入れられるものにすることですが、そのためにはロボットそのものの性能を上げるだけではなく、そのロボットと関わる私たち「人間」の心理や行動を理解する必要があります。例えば、教育の場面では、ロボットの発言が正しく論理的だったとしても、指導される側の人間のやる気や成果を引き出せなければ、そのロボットを利用したいとは思わないですよね。
筆者は、ロボットがどのように振る舞えば、人間の心理や行動を望ましい方向に変容させられるのか、ということを研究しています。こうしたロボットと人間の相互作用の理解は、人工知能技術の発展だけではなく、人文・社会科学の知見に基づいた地道な実験を通じて達成されていきます。
この記事では、筆者が国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の塩見昌裕室長と共同で実施したロボットと人間の相互作用に関する研究の中で、次の3つの面白い成果を紹介します。
1.謝罪するロボットの台数が多いと人は受け入れやすい
読者の皆さんは仕事で失敗したことはありますか? 「ない」という人はほとんどいないと思います。ロボットもまた失敗をせずに完璧に動き続けることは困難です。ロボットとはいえ、社会的なやりとりをする存在という意味では、失敗をしてお客さまに損害を与えた場合は速やかに謝罪を行うことが重要です。
ロボットによる謝罪に関する研究はこれまでにも行われていましたが、それらは主に対話内容の違いがもたらす謝罪の効果に着目していました。
私たちはロボットの謝罪をより受け入れてもらうための方法として、複数のロボットを活用できるのではないかと考えました。これまでの私たちの研究で、対話に参加するロボットの数が増えると、ロボットとの対話の印象が良くなるということが分かっていたためです。
また、経済やビジネスの分野では、謝罪の「コスト」がその謝罪を受け入れるための重要な要因の一つであると言われており、コストのかかる謝罪はコストのかからない謝罪よりも誠実であると思われる傾向があるとされています。複数のロボットで謝罪をすることは、この「コスト」をかけることに相当します。将来のお店では複数のロボットが働いていることが想定できるので、別のロボットが少し作業を止めて謝罪に参加することはそれほど不自然なことではありません。