質や量よりも、多くの他者に認められたい

2体で褒めるグループを用意した理由は、人とエージェントに関するこれまでの研究で、コミュニケーションに参加するエージェントの数が増えると、エージェントとの会話の印象が良くなるということが分かっていたため、褒めの文脈でもそのような効果があるかを検証したかったためです。私たちは、参加者に練習した次の日に再度同じ課題を行ってもらい、どれだけ早く正確にキーを叩けたかを測定しました。

実験の結果、ロボットかCGキャラクターにかかわらずエージェントから褒められた場合、次の日のタイピング成績が有意に向上しました。また、エージェントが2体の場合、パフォーマンスが1体の場合よりも有意に向上しました。このことから、エージェントからの褒めが運動技能習得に効果があることが明らかになりました。

褒めの効果が1体よりも2体のエージェントで強かった点は、質や量よりも多くの他者に認められることが重要である可能性を示唆しており、人間の社会性の強さを物語っているようで大変興味深いです。将来的には、教育や職場などで活動するロボットが、ちょっとしたことを褒めてくれるようになり、それによって私たちのパフォーマンスが向上するようになるかもしれません。

ロボットのペッパー
写真=iStock.com/VTT Studio
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3.ロボットに褒められた人は他人をより褒めるようになる

ところで、人間の謝罪や褒めるといった社会的な態度は他者に伝播することが知られています。周囲の人間が良い態度であれば、自分もそうしやすいということは経験的にも理解しやすいでしょう。それでは、ロボットの社会的な態度もまた人間に伝播するということはあるのでしょうか。この疑問に答えるために、ロボットの態度が人に伝わり、ロボットに褒められた人はより他者を褒めるようになる、という仮説を立て、実験を行いました。

実験では、参加者にPCで単純な課題を与えます。ここで、参加者は、①ロボットが褒める場合、②中立的な情報のみを伝える場合、③煽る場合のいずれかを体験しました。さらに、同じ参加者に他の参加者の課題を評価するという追加課題を与えました。

実際には他の参加者は存在せず、課題の実行状況はあらかじめ本人の課題を記録し再生したものでした。すると参加者は、自分と同じパフォーマンスでタスクを実行する仮想参加者に対して、自分がロボットから受けたように褒めたり、煽ったりしていたのです。

実験の結果、ロボットから褒められていた参加者たちは他の参加者をより褒め、ロボットから煽られていた人たちは、他の参加者を褒めなくなることがわかりました。この結果は、ロボットという人工物の社会的な態度、褒めた相手の社会的な態度に伝播することを示しています。