安定的に貯蔵、運搬する技術は未立証

水素を作る2つ目の方法は、メタン(CH4)と水(H2O)を高温・高圧で反応させることだが、この方法も大量のCO2が発生する。それならば日本で作らないで、中東の産油国などから水素を輸入すればいいという考え方もある。

石油や天然ガスを掘り出したときにメタンなどの炭化水素も一緒に出てくるから、現地で水素を生成して、日本に持ってくるのだ。しかし、産油国で水素を生成するときにもCO2は発生するわけで、いくら日本で使う水素がクリーンでも地球の温暖化問題の解決には寄与しない。

水素の輸入には技術的な問題もある。水素はLNG(液化天然ガス)と同じように、“液化”しなければ運搬できない。LNGはマイナス160度で液化するが、水素は絶対零度に近いマイナス253度にならないと液化しないために、技術的にも非常に難しいのだ。

近年になって千代田化工建設が有機溶剤のトルエンと水素を反応させて、メチルシクロヘキサンという化学物質に液化し、常温常圧で水素の貯蔵・輸送を可能にする技術(SPERA水素)を開発して注目を集めている。

しかし、水素を安定的に貯蔵し、運搬する技術というのは未だ未立証の世界だ。元来、水素には接触した金属を脆化させるという非常に悩ましい問題がある。水素に触れた金属は脆性破壊が起こりやすいのだ。水素を封じ込んでいた金属に脆性破壊が起きれば、当然、水素が外部に漏れ出してくる。だがガソリンやガスと違って水素は無味無臭だから、人間は漏れ出したことに気付かない。福島第一原発では漏れ出した水素の濃度が13%を超えた程度で大爆発が起きている。実験では4%程度で爆発することもある。

福島の原発事故は原子炉が爆発して起きたわけではない。原子炉の燃料棒はジルコニウムという合金に覆われている。原子炉内で高温になった水がジルコニウムと反応して水素を発生させたのだ。高温の水に反応した金属は酸化して水素を発生する。これが水素を作る3番目の方法である。

福島第一原発では、その水素が建屋内に溜まり、空気中の酸素と混じって、水素爆発を起こした。水素は酸素と混ざって爆発する。水素だけなら火種があっても爆発しない。

私が福島第一原発事故の“一人事故調”をやったときの最大の謎は「なぜ稼働してない4号炉で水素爆発が起きたのか」だった。4号炉の燃料棒は全部取り出されていて、炉心は空っぽだった。そんなところに水素が発生するわけがない。結局、3号炉と4号炉の排気筒がつながっていて、3号炉で発生した水素がそこを通って4号炉に流れ込んだという結論に達した。そこで何らかの原因で電気がショートするなりして、4号炉の水素爆発が起きたのだ。