カタクリは日当たりを好むので、ある程度人の手が加わった森林の中の地表面の条件が求められる。ギフチョウ・カタクリ・里山の人々は長い年月をかけて、人知れず共生していたのである。生物多様性における共生・連環のひとコマをトヨタ白川郷自然学校は教えてくれるのである。ギフチョウは環境省が絶滅の恐れのある「絶滅危惧種II類」に指定している日本固有のチョウ。年に一度、春だけ姿を見せることから「春の女神」と呼ばれる。英語では「スプリング・タイガー」と命名されているとおり、羽が黒、黄色のトラ模様になっているところが見た目のはっきりした特徴。「なので、野球のタイガース・ファンにはたまらないチョウなんですよ」と三原ゆかりインタープリターは予想外のエピソードを話してくれた。
こうした豊かな内容が手伝ってか、自然学校の来訪者数はここ数年、年間1万3000人を上回るレベルに達している。しかもリピーター率が5割弱に上ることが注目される。さらに近年、アジアを中心に海外からの来訪者が増え続けているという。トヨタ側も運営の順調さを評価しているのかと思いきや、現場を預かる経営トップ直轄の環境部の反応はやや意外なものだった。
「現場のスタッフの頑張りでお客さんに自然に親しんでもらい、幸い好評を得ているのは本当にありがたく思っている。今後は、お客さんが学校から帰られてからも自然環境を大切に思う気持ちが実践できるようなプログラムをひとつでも増やしていきたいと、現場はやる気満々です」(浅野有・環境部長)
このコメントの真意には少しひもときがいるだろう。たしかに来訪者数は確実に増え、お客の評価も一定して高い。しかし、中身をよく検証してみると、お客の満足度が、施設の内容やインタープリターなど、スタッフによるホスピタリティーにやや片寄っているのではないかという反省点があるようだ。それはそれで誇るべき成果だが、一方で自然学校開設の本来の目的である「地域との共生」、とくに「環境教育」の面ではまだまだ弱いと判断している。
お客が日常生活に戻ってからも、例えば何らかのボランティア活動に参加し始めるようになるといった新たな仕掛けを、プログラム内容のさらなる改革を通じて構築していく意欲を示したと言っていいだろう。すなわち「環境教育」の原点に戻ろうというわけである。どうやら、本業を支える新たな産業基盤づくりに対する思いは健在のようである。