ナイトハイクを社員研修に導入する企業が増加中だ。緊急時以外は懐中電灯なしで、暗闇の森を歩くこの体験。静岡県のホールアース自然学校では20数年前から実施している。

以前はエコ意識の高い家族客、中高生の自然教室が中心だったが、最近目立つのが企業研修の「団体客」らしい。

夜、富士山麓に広がる深い森は沈黙した黒の塊と化す。恐る恐る歩いていくと、道案内のスタッフが聞く。「音を数えてください。どんな音に囲まれていますか?」。100%の静寂と思いきや、風の通る音や生き物の動く音がする。「では、においはしますか?」。土、木、風、そして、正体不明の獣のにおい。また案内人は「ソロ体験してみましょう」と、集団で移動中の参加者をそれぞれ5m以上離して、その場に座らせる。その時間、約5分。一人ひとりが完全に闇に溶け込む。自然と自分との境界線がなくなる。ある30代男性参加者は言う。「何かに見られているような気がします」。リスか鹿か。眠っていた鋭敏な感覚が徐々に覚醒していく。

「私たちも足音を消して、野生動物化しましょう」。ゆっくり歩く。これをフォックス・ウオークというらしい。

同学校代表の広瀬敏通さんは人気の理由を次のように語る。

「(ビジネスマンを含む)参加者がイベントを通して自然の闇の中で共通体験するのが、現代生活から完璧に失われてしまった“野生感”です。その中で自己と向き合い、人間の太古からの古い記憶が蘇る。その体験は現代人の五感を研ぎすまし、リフレッシュさせるのです」

視覚を遮断された中で必死に状況判断し、仲間と連帯しながらサバイブする感覚。不景気という暗闇を生き抜く現代のビジネスマンの仕事にも通じるものがあるようだ。