ルールづくりから戦いは始まる

個々の企業も、ルールづくりに関与する姿勢が大切だ。日本企業は市場原理に則って戦う“市場戦略”に十分な関心を払っているが、市場外の力を使う“非市場戦略”については無頓着だ。ルールづくりへの参加は、企業にとっても重要な非市場戦略の一つ。業界団体への協力や公的機関への働きかけといった非市場的な動きも、仕事の一環として位置づけて積極的にやっていく必要がある。

非市場戦略を強く意識している欧米企業は、商品開発と同時にルールづくりに着手する。ドイツはEV用リチウム電池を完全に製品化する途上で、先行して国際規格案を提出したように思う。製品化してから規格提案をする日本とは発想が違う。日本企業もそれくらいのスピード感を持たないと、勝てない。

ホンダが誇る二足歩行ロボツトASIMOも、非市場戦略なしに実用化は難しい。いまのところ屋内でのデモだが、開発が進めば屋外でのデモも可能になる。そのとき「ASIMOは出力がある。公道を走るときは頭にナンバープレートをつけてください」といわれたら、近未来的なASIMOのデザインが台なしだ。そうならないように早めに関係省庁と折衝しておくべきかもしれない。この話は半分ジョークだが、先手を打って非市場戦略に乗り出さないと、後で思わぬしっぺ返しを食らうリスクがあることはたしかだ。

30代、40代のビジネスマンが、ルールづくりに関与することはまだ少ないかもしれない。しかし、自身が関わっている製品やサービスのルールが、何のために決められたものかは知っておいて損はない。誰が、どういう背景で決めたのか理解することで、ルールをつくった団体のレベルがわかるし、おかしいと思うルールも出てくる。多くの事例を学ぶことで視野が広がってくる。いざ、非市場戦略で戦うときに役立つだろう。

本田技研工業 総務部長 青木高夫
豪州・英国での駐在中に販社開発、企業合併、多国籍部門のマネジメントに関わるほか、交渉部門で税制・通商など国内外の自動車産業のルールづくりに参画。ビジネス書の翻訳のほか著書『ずるい!? なぜ欧米人は平気でルールを変えるのか』。
(村上 敬=構成 浜村多恵=撮影 時事通信フォト=写真)
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