「一皮剥ける」ために必要なこと
そんな状況が1年近く続いた。小さな仕事や海外の事務所から依頼される調査的な仕事で糊口をしのいだが、1年後の評価は最悪だった。当時の日本事務所代表は米国人だったが、評価面談で彼に「Disappointed」(がっかりだ)と言われたのを今でも覚えている。そんなことを言われなくても、一番がっかりしているのは自分なのだが、何の反論もできなかった。
しかし、その直後くらいから、引き合いがくるようになってきた。
「提案書を出さないか?」という誘いやプロジェクトの依頼が次々ときて、あっと言う間にこなし切れないほどのプロジェクトを抱えるようになった。自分でも驚くほどの変わりようだった。
今振り返ると、この変化は突然「神風」が吹いたことによって起きたわけではなかった。いくつもの要因が重なって起きた必然だと私は思っている。
ひとつ目はその1年間、私が「動き続けた」ことである。すぐに仕事にはならないとわかっていても、伝手を辿って様々な企業を訪ね、多くの人と会う努力を重ねてきた。時に虚しく感じることもあったが、その「種蒔き」がじわりじわりと効いていた。
コンサルティングは押し売りをしても売れるようなものではない。まずは人間関係を築き、後はプロジェクトのタイミングを待つしかない。すぐに花が咲き、実がなることは稀だ。でも、種を蒔かなければ、絶対に花は咲かない。必ず花が咲くと信じて、動き続けたことが実を結んだ。
2つ目の要因はそれまでに行った小さな仕事が評価され、大きな仕事に結びついたことである。小さな予算しかもらえない仕事でも私は手を抜かなかった。時には、予算をはるかに超える数のコンサルタントを投入して、自分たちの仕事ぶりや能力をアピールした。
米国人の代表は「赤字プロジェクト」にうるさかったのでさんざん文句を言われたが、「先行投資だ」と強引に進めた。小さな予算に合わせた片手間の仕事しかしていなかったら、大きな仕事をもらえるチャンスはこなかっただろう。
そして、3つ目の要因は「個人商店」から脱却したことである。転職した頃は、自分ひとりでも仕事がとれるという実績を残したくて、妙に肩に力が入っていた。日本事務所に在籍するパートナーの数も限られていたので、頑張らざるをえないという環境でもあった。
しかし、たとえ日本事務所は小さくても、グローバルで見れば世界各地にいくらでも優秀なパートナーがいた。ある会社から引き合いがあったとき、そのテーマに精通したロンドンのパートナーに相談した。すると、彼はすぐに来日してくれ、一緒にそのクライアント企業を訪問してくれた。
数多くのプロジェクトを経験している彼の話は説得力があり、受注に結びついた。わずか2時間あまりのプレゼンのために、わざわざロンドンから駆けつけてくれた彼のサポートに私は感動した。
組織力に頼ることに嫌気がさし、個人の力量を試すために転職をしたのだが、最終的にはやはりチーム力が大事だと認識することになったのは皮肉な結果だ。しかし、これも飛び出したからこそわかった。「一皮剥ける」とはこういうことなのだと実感した。